「首折り男のための協奏曲」伊坂幸太郎著

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■技巧を凝らし、円熟な境地を感じさせる連作集

「これ、隣のお兄さんじゃないかしら」
 テレビを見ていた老妻が夫に聞く。首の骨を折って殺す連続殺人事件の容疑者の特徴が隣に住む青年と似ているという老夫婦の会話から始まるのが冒頭の「首折り男の周辺」。

 首折り男とそっくりな外貌の気の弱い大男、クラスでいじめを受けている中学生、そして首折り男本人の3者が奇妙な縁でつながっていく。

 続く「濡れ衣の話」は、息子を自動車事故で亡くした男と首折り男が遭遇して意想外の話へ展開する。次の「僕の船」は冒頭の老夫婦が再登場し、泥棒兼私立探偵の黒澤に老妻が初恋の男を捜してほしいと頼む。その黒澤は続く、「人間らしく」「月曜日から逃げろ」「相談役の話」の3つの話の主役となっていく。そしてラストの「合コンの話」には再び首折り男が出てきて冒頭につながるという趣向だ。

 首折り男と黒澤という2人のキャラクターを主旋律として、いじめ、復讐、戦争といったテーマをミステリーからSFまでさまざまな技巧を凝らしながら奏でていく。円熟の境地を感じさせる7つの短編を収めた連作集。

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