『「自分」の壁』養老孟司著

公開日: 更新日:

 私たちは、環境から独立した、形ある個体である。私たちは、独自の遺伝子を持つ独自の存在である。そんな思い込みがガラガラと崩れていく。

 私たちが自分を個体だと認識しているのは、脳の中に「自己の領域」を決めている部位があるからで、そこが破損すると体の境界が分からなくなるという。

 ヒトゲノムの解読が終わり、人間の設計図が明らかになったかと思いきや、遺伝子の30%ほどが、もともとは外部のウイルスだったらしい、ということが分かってきたという。実は、環境と私たちは一心同体。それが自然の本来の姿なのだ。

 こうした研究成果は、「自分」「自我」「自意識」を揺るがす。本当の「自分」を見つけ出して個性的に生きたい、などという考え方が、荒唐無稽に見えてくる。

 東洋にはもともと「我を消す」思想があった。近代的自我は、明治以降西洋から入ってきた考え方で、日本人にはなじまない。自分探しなんかムダなこと。

「バカの壁」「死の壁」「超バカの壁」に続く「壁」シリーズの最新刊。「自分」を入り口に、原発・エネルギー、政治、がん治療、死、情報過多社会など、テーマは縦横無尽に広がる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜・村田監督が3年前のパワハラ騒動を語る「選手が『気にしないで行きましょう』と…」

  2. 2

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  3. 3

    マツコが股関節亜脱臼でレギュラー番組欠席…原因はやはりインドアでの“自堕落”な「動かない」生活か

  4. 4

    松井秀喜氏タジタジ、岡本和真も困惑…長嶋茂雄さん追悼試合のウラで巨人重鎮OBが“異例の要請”

  5. 5

    巨人・田中将大と“魔改造コーチ”の間に微妙な空気…甘言ささやく桑田二軍監督へ乗り換えていた

  1. 6

    5億円豪邸も…岡田准一は“マスオさん状態”になる可能性

  2. 7

    小泉進次郎氏8.15“朝イチ靖国参拝”は完全裏目…保守すり寄りパフォーマンスへの落胆と今後の懸念

  3. 8

    渡邊渚“初グラビア写真集”で「ひしゃげたバスト」大胆披露…評論家も思わず凝視

  4. 9

    「石破おろし」攻防いよいよ本格化…19日に自民選管初会合→総裁選前倒し検討開始も、国民不在は変わらず

  5. 10

    大の里&豊昇龍は“金星の使者”…両横綱の体たらくで出費かさみ相撲協会は戦々恐々