父の青春をめぐるノンフィクションを描いた 目黒考二氏に聞く

公開日: 更新日:

 数年前、「刑務所の中で一週間泣いた」と書かれた父のメモを読んだ著者は、これまで抱いていた父親像とは大きな隔たりを感じた。

「僕の知っている父は、自宅でただ黙々と本を読んでいるだけ。何がおもしろくて生きているんだろうと思っていたんです。ところが、父には若いときに地下に潜って一緒に生活する女性もいたわけですからね。そのとき、父はどんなことを考えて生きていたのか。父が作った俳句に僕の生まれた時期の句がないこと、そして、初代が死んだときに父が1週間泣いたということにもひっかかりながら、父は戦後の僕たち家族との暮らしをどう思っていたんだろうか、それが一番知りたかったんです」

 本書を書き始めたのは、父が亡くなった1991年から6年ほど経ってからのこと。取材のため、父が収監されていた宇都宮刑務所の跡地にも足を運んだ。

「父のことを調べてわかった結論は、その人の真実には近づけないということでした。書き上げた今も、これがあの父親・目黒亀治郎の本当の姿なのかと。いずれにしても、父の青春を書くという作業を通して、父を思い出すことこそが親孝行だったのかもしれません。本なんか出さなくてもいいじゃないかという気持ちでいたときには、街を歩いていると、ふっと思い出すんですよ、小さいときに父と映画館に行って、夜遅く帰るときに風にあおられて、シャッターが鳴る音とか。ところが、本を出してからは1回も思い出さないんです(笑い)。書き終えて気が済んじゃったのか、ちょっとさびしいですね」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  3. 3

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  4. 4

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督

  5. 5

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  1. 6

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  2. 7

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  3. 8

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  4. 9

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  5. 10

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い