著者のコラム一覧
三島邦弘

ミシマ社代表。1975年、京都生まれ。2006年10月単身、ミシマ社設立。「原点回帰」を掲げ、一冊入魂の出版活動を京都と自由が丘の2拠点で展開。昨年10月に初の市販雑誌「ちゃぶ台」を刊行。現在の住まいは京都。

「一瞬の雲の切れ間に」砂田麻美著

公開日: 更新日:

砂田監督の連作小説に目次からしてやられた

 先を知るのが怖い。だが、どれほど怖くても、映画が本人の意思と離れて進んでいくように、本書もまたこちらの手を止めることを許さなかった。

 無理もない。この本の著者は、映画監督なのだ。とはいえ、フィクション畑の人ではない。

「エンディングノート」「夢と狂気の王国」の2作は、どちらもドキュメンタリー映画。砂田監督からは、フィクションを手がけるイメージをそれほど感じたことがなかった。ところが、その浅はかな思い込みは、冒頭の感想の通りで、気持ちいいくらい、完全に裏切られた。

 目次からしてやられた。「夏、千恵子の物語」「秋、吉乃の物語」「冬、健二の物語」「春、美里の物語」「春、浩一の物語」。この章タイトルを眺めたとき、漠然と、爽やかな話が始まる予感を持った。そうして本文に入っていくと、のっけからやられてしまう。

不倫相手の家からちょっとそこまでビールを買いに出かける人が、本当はもの凄く逃げ足の速いことを、私は健二さんと出会って3年目のあの頃、ようやくぼんやり悟りだしていた」

 な、なんと。衝撃さめやらぬうちに、1章読了。もっと続きを読みたい。そう思っていると、次章は、「健二さん」が会話で触れた人物による回想だった。そのときになってようやく悟った。この本が、5人の人物の視点から書かれたもの、しかも季節が経過しながら展開するという連作ものであることに。

 ここでは、中身の紹介は避けたい。なぜなら、私自身がストーリーの流れを知ったうえで、小説を読むことを好まないからだ(だからこそ、連作短編集であるという帯に謳われた情報すらスルーしていた)。その代わり、印象に残ったフレーズを引用してみる。

「あんな笛持たせて母親の役目果たしたみたいにいい気になってたら、あっという間に死なせちゃって」(吉乃の物語から)。「生きているが故に降りかかる責任を共にする相手はここではない場所にいるのだと」(健二の物語から)。「まわりの母親たちが、もう一方の目で私を見ているのが、そちらを見なくともはっきりとわかった」(美里の物語から)

 最後の章で、これまで一度も登場していなかった人物・浩一の回想が続く。そして、文字通り、予想できない結末が……。映像でも早く見たい!(ポプラ社 1400円+税)



【連載】京都発 ミシマの「本よみ手帖」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  2. 2

    中島歩「あんぱん」の名演に視聴者涙…“棒読み俳優”のトラウマ克服、11年ぶり朝ドラで進化

  3. 3

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  4. 4

    「続・続・続」待望の声続々!小泉今日子&中井貴一「最後から二番目の恋」長寿ドラマ化の可能性

  5. 5

    「コンプラ違反」で一発退場のTOKIO国分太一…ゾロゾロと出てくる“素行の悪さ”

  1. 6

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  2. 7

    旧ジャニーズ「STARTO社」福田淳社長6月退任劇の内幕と藤島ジュリー景子氏復権で「お役御免」情報

  3. 8

    ソフトBは山川穂高にこだわる必要なし…丸刈りで一軍復帰も“崖っぷち”の現実

  4. 9

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学

  5. 10

    国分太一は会見ナシ“雲隠れ生活”ににじむ本心…自宅の電気は消え、元TBSの妻は近所に謝罪する事態に