著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「死体泥棒」パトリーシア・メロ著 猪股和夫訳

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 ブラジル産のミステリーとは珍しい。著者はブラジルの人気作家だが、その作品は本国だけにとどまらず、英語圏をはじめ、フランス語版、ドイツ語版など、各国で翻訳されているという。そのパトリーシア・メロの作品が、ついに日本にも上陸である。

 物語の舞台は、隣国ボリビアとの国境も近いブラジル南西部の田舎町コルンバ。主人公が小型飛行機の墜落現場に遭遇するのが発端で、彼は機内にあった大量のコカインをほんの出来心で盗み出す。ところが、小遣い稼ぎにそのコカインを売り払っているうちに仲間のミスでギャングに借金を負ってしまうから大変だ。その窮地から抜け出るために考えついたのが死体を盗むこと――とどんどんエスカレートしていく。その必死の計画ははたして成功するか、というふうに物語はテンポよく軽快に進んでいく。

 飛行機の墜落現場に駆けつけてその機内から何物かを盗んだために、とんでもない方向に人生がズレていくというプロットは、スコット・スミス著「シンプル・プラン」という先例があるけれど、あちらはとてもシリアスな話だった。こちらはあくまでも軽妙な線を守り続ける。

 昨今の翻訳ミステリーは分厚いものが少なくないが、短くて読みやすいのもいい。本書は、メロの8作目の作品で、2010年にブラジルで発表され、その後、ドイツ・ミステリー大賞の翻訳作品部門で第1位になった長編である。(早川書房 700円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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