北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「フィフス・ウェイブ」リック・ヤンシー著 安野玲訳

公開日: 更新日:

 エイリアンによって地球が侵略される物語はこれまでたくさん書かれてきた。しかしその姿をここまで隠し続ける小説も珍しい。彼らがいったいどういう姿をしているのか、いっさい描かないのである。

 地球から400キロの軌道上に突如、宇宙船が現れるものの、向こうからは何の接触もなく、地球からの呼びかけにも応じず、あるいは友好のために来たのかもしれないと思いはじめた10日目に、攻撃は突然行われる。まず地球規模の停電、次に巨大な津波、そしてウイルスによる伝染病蔓延という凄絶な攻撃。これで全人類の97%が死滅。それでもエイリアンは姿を見せない。

 エイリアンの意識が人間の中で眠っていて、攻撃と同時に覚醒して生き残りの人類を殺しまわるというストーリーの大きな流れがあるので、侵略の意図はずいぶん以前からあったということになるが、なぜそんなに長い期間攻撃を待ったのか。その意図は謎のまま伏せられる。実はこれ、3部作の第1部なのだ。だからそのうち、エイリアンの姿も、その意図も明らかになるのだろう。

 物語はそういう時代に生きる少女と少年の冒険を描くかたちで進んでいく。4月23日公開の映画の原作だが、全米でベストセラーになったヤングアダルト小説なので読みやすいのもいい。誰が本物の人間なのか分からないという状況で戦う彼らの奮闘ぶりを、ぜひお読みいただきたい。(集英社 1200円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗