「向田理髪店」奥田英朗著

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 北海道中央部の過疎の町・苫沢町。かつて炭鉱で栄えた町も、今や衰退の一途をたどり、人口流出が止まらない。

 そんな苫沢町の「向田理髪店」の店主・向田康彦は、札幌で大学生活を送って広告会社に就職した後、父親の持病の悪化を機に帰郷して実家の理髪店を継いだ出戻り組。53歳になった今、将来性のない理髪店は自分の代で終わらせるつもりでいたところ、札幌の商事会社で働いていた23歳の長男・和昌が突然、苫沢町に帰ってくると言い出した。

 今から理容師学校に通い、将来はカフェも併設したいと夢を語る息子に対し、康彦は札幌で何かあったのか、過疎地に引っ込んだら嫁も来ないのではないかなどと、心配が尽きないのだが……。

 過疎地の介護問題、都会帰りのスナックママを巡る住民たちのさや当て、映画ロケ地騒動など、小さな町を揺るがすさまざまな事件を描いたハートウオーミングな物語。寂れた町のはずなのに、濃密すぎる田舎の人間模様が実ににぎやかだ。(光文社 1500円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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