「向田理髪店」奥田英朗著

公開日: 更新日:

 北海道中央部の過疎の町・苫沢町。かつて炭鉱で栄えた町も、今や衰退の一途をたどり、人口流出が止まらない。

 そんな苫沢町の「向田理髪店」の店主・向田康彦は、札幌で大学生活を送って広告会社に就職した後、父親の持病の悪化を機に帰郷して実家の理髪店を継いだ出戻り組。53歳になった今、将来性のない理髪店は自分の代で終わらせるつもりでいたところ、札幌の商事会社で働いていた23歳の長男・和昌が突然、苫沢町に帰ってくると言い出した。

 今から理容師学校に通い、将来はカフェも併設したいと夢を語る息子に対し、康彦は札幌で何かあったのか、過疎地に引っ込んだら嫁も来ないのではないかなどと、心配が尽きないのだが……。

 過疎地の介護問題、都会帰りのスナックママを巡る住民たちのさや当て、映画ロケ地騒動など、小さな町を揺るがすさまざまな事件を描いたハートウオーミングな物語。寂れた町のはずなのに、濃密すぎる田舎の人間模様が実ににぎやかだ。(光文社 1500円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

  2. 2
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  3. 3
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  4. 4
    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

  5. 5
    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

  1. 6
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  3. 8
    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

  4. 9
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 10
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”