「夜を乗り越える」又吉直樹著

公開日: 更新日:

 なぜ本を読むのか。なぜ文章を書くのか。「火花」はどのようにして生まれたのか。幼いころにまでさかのぼり、自身の文学体験を語り尽くした本。作家・又吉直樹は生まれるべくして生まれたのだと納得する。

 勉強はできなかったが、国語だけは苦手意識がなかった。教科書に載っている詩や小説を勝手に先回りして読むのが好きだった。

 中学1年のとき芥川龍之介の「トロッコ」を、2年のとき太宰治の「人間失格」を読んで、近代文学にはまった。自分の中にある不安や異常と思われることが、小説として言語化されている。しょうもないことも書いてある。「こんなことを考えてもいいんだ」と思った。

 以来、半端ではない読書経験を積んできた。芥川、太宰をはじめ、漱石、谷崎、織田作之助。現代の作家では、古井由吉、町田康、西加奈子、中村文則など。好きな作家や好きな作品を語る口調には、「読んでほしい!」という熱がこもる。

 本は賢い人たちのためだけにあるものではない。むしろ、本なんて必要ないと思っているパンクスや芸人のほうが、「めちゃくちゃ相性がいい」のではないか。

 小説に救われ、夜を乗り越えてきた人の、心底からの読書のすすめは、本を読まない人にも刺さりそうだ。(小学館 820円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    侍ジャパンに日韓戦への出場辞退相次ぐワケ…「今後さらに増える」の見立てまで

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  4. 4

    “新コメ大臣”鈴木憲和農相が早くも大炎上! 37万トン減産決定で生産者と消費者の分断加速

  5. 5

    侍J井端監督が仕掛ける巨人・岡本和真への「恩の取り立て」…メジャー組でも“代表選出”の深謀遠慮

  1. 6

    巨人が助っ人左腕ケイ争奪戦に殴り込み…メジャー含む“四つ巴”のマネーゲーム勃発へ

  2. 7

    藤川阪神で加速する恐怖政治…2コーチの退団、異動は“ケンカ別れ”だった

  3. 8

    支持率8割超でも選挙に勝てない「高市バブル」の落とし穴…保守王国の首長選で大差ボロ負けの異常事態

  4. 9

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 10

    和田アキ子が明かした「57年間給料制」の内訳と若手タレントたちが仰天した“特別待遇”列伝