「伝言」中脇初枝著
「伝言」中脇初枝著
ひろみは、満州国・新京の高等女学校に通う3年生だが、授業はなく、毎日、軍の工場で畳ほどもある大きな紙を何枚も張り合わせる作業に従事する。父親は満州の五族協和をすすめる協和会で働いており、かつては何不自由ない日々を過ごしていたが、今は制服の代わりに体操服で働き食事も質素になってしまった。
唯一の楽しみは、家族ぐるみで付き合う満人の李太太が差し入れてくれる饅頭やお菓子だ。一方、抗日活動が原因で息子を失った李太太は、周囲から日本人と付き合っていることに後ろ指をさされるが、ひろみ一家は格別だ。しかし、双方の運命を変えるその日は刻々と近づいてきていた。
戦争末期の満州を舞台に、風船爆弾製造に従事させられた少女の視点から戦争の残酷さを描く長編。 (講談社 1001円)