「日本はまだ米軍の占領下」は真実だった

公開日: 更新日:

「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」矢部宏治著(集英社インターナショナル)

 日本はいまだに米軍の占領下にある。本書を一言で要約すると、そうなる。「そんなバカな」と思われるかもしれないが、著者はきちんと証拠を示しながら丁寧に論証しているから、これは事実だ。

 正直言って、私自身、そんなことじゃないかと思っていた。経済分野の日米交渉で、日本は一度も勝ったことがないのはなぜなのか。2012年に航空自衛隊の航空総隊司令部が米軍横田基地に移転されるなど、米軍と自衛隊の統合運用が強化されているのはなぜなのか。日本がまだ、米軍の支配下にあるのだとしたら、そうした疑問に完全な答えが出るのだ。

 著者は、日本において米軍は基地権と指揮権を持っているという。基地権というのは、米軍基地内で米軍が自由に行動できるだけでなく、基地への自由なアクセス権を持つというものだ。例えば、米軍関係者は日本が管制権を持たない横田空域を飛んで横田基地に入り、そこから六本木の米軍ヘリポートに軍用ヘリで移動する。日本に入国するのに手続きもパスポートも要らない。

 指揮権というのは、有事の際に自衛隊は米軍の指揮下で活動するということだ。私はずっと自衛隊は日本を防衛するための組織だと思ってきたのだが、そうではない。自衛隊は、米軍支援のための部隊だったのだ。

 そうした事実が国民の前に明らかになっていないのは、安保条約や地位協定などに書かれているのは、表向きの話だけで、日本国民にとって都合の悪いことは、すべて日米合同委員会で密約として決められるからだという。

 この日米合同委員会の出席者は日本政府の代表と米軍の代表だ。つまり、日米関係というのは、政府間交渉のレベルにも達しておらず、いまだに占領下と同じ、米軍の支配下に置かれているのだ。それが戦後70年たった日本の現実なのだ。

 ただ、著者はあきらめてはいけないという。いくら密約があったとしても、国民の声は、無視できないからだ。

 日本が本当の主権を回復するために、まず私たちがやらなければならないことは、日本の安全保障の実態がどのようになっているのかを知ることだ。その点で、本書は必読と言ってよい良書だ。★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  3. 3

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  5. 5

    巨人大ピンチ! 有原航平争奪戦は苦戦必至で投手補強「全敗」危機

  1. 6

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 7

    衝撃の新事実!「公文書に佐川氏のメールはない」と財務省が赤木雅子さんに説明

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    高市首相が漫画セリフ引用し《いいから黙って全部俺に投資しろ!》 金融会合での“進撃のサナエ”に海外ドン引き

  5. 10

    日本ハムはシブチン球団から完全脱却!エスコン移転でカネも勝利もフトコロに…契約更改は大盤振る舞い連発