著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ハンティング(上・下)」カリン・スローター著、鈴木美朋訳

公開日: 更新日:

 連続殺人犯を追う警察小説である。女性を拷問し、肋骨を1本もぎとるという残虐な手口の殺人鬼を追い詰める捜査陣営の活躍を描いていくが、それだけなら昨今の翻訳ミステリーで珍しい話ではない。

 この長編が忘れがたいのは、主要登場人物の設定がきわめて異色だからである。まず主人公のウィルはジョージア州捜査局の特別捜査官だが、ディスレクシア(知的能力に遅れはないが、先天的な脳の機能の偏りによって文字を読み書きすることに困難のある障害)の症状があるとの設定である。これは発見しにくい障害で、継続的な保護者がいなかったために何の支援もないまま成人化したということのようだ。ウィルは持ち前の記憶力と創意工夫でその障害を誰にも気づかれることなく進学し職を得る。その事情を知っているのは上司のアマンダと同僚のフェイスのみ。

 そのフェイスにも事情がある。彼女は14歳で出産しシングルマザーとなるが、ただいま第2子を妊娠中。今度もひとりで産む決心をしている。もうひとり、小児科医サラは数年前に警察官の夫を射殺され、その悲しみからいまだ立ち直っていない。

 この3人が本書の主要な登場人物だが、彼らの濃い感情が物語の随所から噴出し、読む者を圧倒する。いやはや、すごい。主人公の私生活が事件と別に語られるという趣向は珍しくないが、その範疇を超えているのだ。これが本書のキモ。今月のおすすめだ。(ハーパーコリンズ・ジャパン 各889円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  2. 2

    紗栄子にあって工藤静香にないものとは? 道休蓮vsKōki,「親の七光」モデルデビューが明暗分かれたワケ

  3. 3

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  4. 4

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  5. 5

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  1. 6

    永野芽郁×田中圭「不倫疑惑」騒動でダメージが大きいのはどっちだ?

  2. 7

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 8

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動

  4. 9

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 10

    永野芽郁がANNで“二股不倫”騒動を謝罪も、清純派イメージ崩壊危機…蒸し返される過去の奔放すぎる行状