「神田神保町書肆街考」鹿島茂著
東京・神田の神保町は世界でも有数の規模を持つ古書店街である。では、どうしてこういう街が生まれたのか。その「本の街」の誕生から現在までの歴史を、膨大な書物をひもときつつ描きだしたのが本書だ。
幕末、蕃書調所が一橋門外に居を定め、その周辺に蘭学や英学を志す学生を対象とした私塾が発生し、それまでの武家町だった神保町が文教町に変貌する。学生が多くなれば、本を売り買いする場所、すなわち書店に古本屋が生まれるのも当然で、かくて書店街に少しずつシフトしていく。
明治10年代も末になると、神保町は古書店が多く立ち並ぶ本の街になっていたようだが、興味深いのは、当時は今のすずらん通りが「表神保町」で、また、靖国通りが「裏神保町」であったこと。このかたちを大きく変えたのは大正2年の大火で、これをきっかけに現在のかたちに近づいていく。明治から大正にかけては中国人留学生も多く、すずらん通り一帯がチャイナタウンのようになっていたようだ。
明治期最大の出版社である博文館の創設者大橋佐平が越後長岡の人。この郷土の成功者に憧れて長岡の野心的な青年が多く上京してきて出版業と書店業に入っていった、という歴史のためにこの街が長岡人の街として形成されていったというのも興味深い。
550ページを超える書だが、読み始めたらやめられない労作である。(筑摩書房 4200円+税)