「金の卵」たちの証言で働くことの意味を知る

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 現在放送中のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でも描かれている集団就職昭和30~40年代、地方の中学校を卒業した少年少女たちは、家計を支えるために集団就職列車に乗って大都市圏に移り住み、工場や商店で働いた。現代の若者たちには、想像もつかない話だろう。

 澤宮優著「集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち」(弦書房 2000円+税)は、集団就職経験者たちの声を集めたルポ。

 当時の望郷の思いや都会で感じた戸惑いや喜び、そして辛苦が赤裸々に語られている。

 京都市で洋食店を営む山内達己さんは、長崎県西海市出身。昭和40年に中学を卒業し、関西で東芝のテレビを組み立てる工場に就職した。

 父親はサラリーマンだったが、山内さんが小学校1年生の時に肺炎で亡くなっている。母はクリーニングの仕事や米軍基地の廃品回収で家計を支えたが、山内さんの下には2人の妹がおり、暮らしは貧しかった。長男である自分が中卒で働くことには何の迷いもなく、「あの頃は小遣いなんてなく、ただ仕送りすることだけを考えていた」と振り返る。

 熊本県天草町で6人兄弟の長男として育った竹森要さんは、昭和35年に名古屋に集団就職し、トヨタの下請け工場で働いた。飛行場で働いていた父親が長崎県で被爆し、竹森さんは15歳で一家の大黒柱となったのだ。ひと月に120時間を超える残業など労働環境も苦しかったが、人間関係でも惨苦を味わったと振り返る。「あの頃は九州も田舎ということで先輩たちがいじめるわけです。名古屋弁はきついですからね」。そんな事情も重なり、ぐれて会社を去った少年たちも少なくなかった。繁華街で働き暴力団に誘われ、消えてしまった友人もいたという。

 匿名でインタビューに答えた女性のBさんは、鹿児島県から神奈川県の電機メーカーに就職。給料は仕送りで消えてしまい、少女たちの中には稼ぎのいい水商売に手を出したり、都会の男にだまされて夜の世界に落ちていく者もいた。Bさん自身は「親に心配かけたくないという気持ちが、折れそうな気持ちを支えてくれた」と振り返る。

 高度経済成長を陰で支えた少年少女たち。その姿から、働くことの意味を教えられる。

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