著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

白石家では不景気の波が来たとたんコロッケが続いた

公開日: 更新日:

「マンガ 自営業の老後」上田惣子著/文響社 1180円+税

 何という恐ろしい本が出たのだ。アナコンダや殺人アリよりも怖い自営業者の老後。震える手でページをめくれば、著者は女性イラストレーターで、若い時に比べて、50歳を過ぎた今は、収入が3分の1に激減したという。

 私もフリーランスの端くれだが、現実から目をそむけ、楽しいことだけ考えて生きてきた。昼からビール片手に仕事しても怒る人もなく、満員列車も嫌な上司もいない。収入は少なくとも、この気楽な人生を気に入っていたのだが、どうやら現実は甘くないようだ。

「もう死んだほうがまし」と悲嘆している彼女の元に、「老後の本」の依頼がくる。お金がないというから、どんなボロ家に住んでいるのかと思ったら、完済済みの一軒家で夫とふたり暮らし、しっかり民間の保険に加入しているというではないか。

 すべてが凍える氷河期で、ピサの斜塔のように傾いた出版界しか知らない私からしたら、イケイケドンドンだったバベルの塔時代に稼げたのはうらやましいが、むしろそのギャップが不安なのだろう。

 本書では、経済の素人にも分かりやすく、さまざまな「お金の達人」が登場して指南してくれる。90歳までの生涯収支、実は無敵の年金、節税できる共済や納得できる保険の入り方など、目からウロコの知識が次々と飛び出す。おもしろいのは「7・5・3周期」という建設界の言葉。不景気7年、普通5年、儲かるのは15年のうち3年だけだ。儲からない期間は、じっと耐えて次の景気を待つ。

 そういえば、父が職人だった白石家でも、景気が良くなると食卓に刺し身やカニが躍るが、不景気の波が来たとたんコロッケが続く。子供心に「景気の波が来た! 今年のクリスマスプレゼントはでかいぞ」と感じとっていたのだが、あれ? 白石家は冬にじっと耐えるのではなく景気の波に乗りまくっていたのだと気がつく。

 景気の波を知り、現実を把握しておくだけでも不安は解消する。自営業者だけではなく、サラリーマンも買っておいて損はない本だ。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「時代と寝た男」加納典明(19) 神話レベルの女性遍歴、「機関銃の弾のように女性が飛んできて抱きつかれた」

  2. 2

    梅宮アンナ「10日婚」短期間で"また"深い関係に…「だから騙される」父・辰夫さんが語っていた恋愛癖

  3. 3

    国分太一が無期限活動休止へ…理由は重大コンプラ違反か? TV各局に全番組降板申し入れ、株式会社TOKIO解雇も

  4. 4

    吉沢亮「国宝」が絶好調! “泥酔トラブル”も納得な唯一無二の熱演にやまぬ絶賛

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題か...大谷の“献身投手復帰”で立場なし

  1. 6

    中学受験で慶応普通部に合格した「マドラス」御曹司・岩田剛典がパフォーマーの道に進むまで

  2. 7

    進次郎農相の化けの皮ズルズルはがれる…“コンバイン発言”で大炎上、これじゃあ7月参院選まで人気持たず

  3. 8

    砂川リチャード抱える巨人のジレンマ…“どうしても”の出血トレードが首絞める

  4. 9

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  5. 10

    「育成」頭打ちの巨人と若手台頭の日本ハムには彼我の差が…評論家・山崎裕之氏がバッサリ