誰でも親を抱えている限り認知症と戦わないといけない

公開日: 更新日:

「母さん、ごめん。」松浦晋也著/日経BP社

 本書は、認知症を患った母親の介護を行った男性の迫真のドキュメンタリーだ。こうした本は、これまでほとんどなかった。介護は、善し悪しは別として、女性に押し付けられることが多いし、仮に男性が介護をしたとしても、それをきちんと読み物にできるほどの執筆能力を普通の人は持っていないからだ。

 その点、著者は独身で、妹や弟も事情があって介護をすることができなかったため、大部分の介護が著者にふりかかってきた。そして、著者の本業は科学技術系のライターだから、文章を書くのはお手のものだったのだ。

 本書を読んでまず感じたのは、認知症というのは、症状の重い軽いは別にして、高齢になると誰にでも発生するということだ。

 私は6年前に3年間にわたる介護の末、父を亡くしている。父は認知症ではなかったが、脳出血で半身不随だった。それでも運転免許証を更新に出かけると言い張って、周囲を困らせた。思考の柔軟性やバランス感覚がなくなるというのは、本書に書かれているエピソードと共通している。

 それは86歳になる私の義理の母も同じだ。レストランに連れていくと、「ここの料理はおいしくないわね」と大声で言ってしまう。これも、本書に登場する話とそっくりだ。つまり、誰でも親を抱えている限り、認知症と戦わないといけないということなのだ。

 それに対して、本書の最大のメッセージは、介護を一人で抱え込んではいけないということだ。我が家も、妻が在宅介護にこだわって、ずっと父の面倒をみていたのだが、肉体的というより、精神的に追い詰められてしまった。その点、ケアマネジャーや介護福祉士はプロだから、介護の負担を確実に軽減してくれる。介護をまかせるのではなく、ともに戦ってくれる仲間が必要なのだ。

 また、本書が投げかける独自の問題は、「母親の下着のことを知っていますか」という点だ。それを知らないと、介護は不可能なのだ。

 現在、45~49歳男性の非婚率は3分の1に達している。男性による母親の介護は、今後爆発的に増えていく。そのとき本書は、本当に役立つ指針を与えてくれるだろう。 

★★半(選者・森永卓郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  3. 3

    天皇と戦争の世紀(2)軍部の「大権干犯に当たらず」の説明に苛立ち

  4. 4

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  5. 5

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  1. 6

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  4. 9

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

  5. 10

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(3)「『石球城』殺人事件」北山猛邦著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    「マクドは健康保険と年金に加入できてよかった」 シニアが働き続けるために必要なこととは?

  3. 3

    徳川光圀(1)水戸黄門は全国漫遊などしていない 主に出かけたのは江戸と領地の往復

  4. 4

    東京・蒲田の2駅結ぶ蒲蒲線、大田区と地元を取材して分かった実現のハードルと地元の思い

  5. 5

    東京・大井町、OIMACHI TRACKSと対照的な東小路飲食店街、商店街理事長が直面する2つの問題

  1. 6

    NHK夏の音楽特番「うたであえたら」は北川景子のMCが見事 カオスと化した近年の紅白はお手本に

  2. 7

    「山口組」抗争指定解除へ、それでも対立は続く…6代目幹部「喜ぶのは早い」

  3. 8

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  4. 9

    止まらない高市首相SNS発信に官邸総動員の実態…この週末は3日間で11連投も「ゴキブリ」投稿で大炎上

  5. 10

    清水アキラさんが三男急死の直前に語っていた“せがれ”のこと 良太郎さんに口説かれものまねショー復帰