著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

「1%」の人々が気候変動の危機を食いものに

公開日: 更新日:

「これがすべてを変える」(上・下)ナオミ・クライン著、幾島幸子ほか訳 岩波書店 各2700円+税

 福島第1原発事故が起きた2011年に、著者の前著「ショック・ドクトリン」が邦訳された。「火事場泥棒の資本主義」という意味だ。人々が大災害や危機に遭って呆然と立ち尽くしているスキを狙って、「1%」の独裁権力や大資本が危機を食いものにし、危機を都合良く利用してきた歴史をあぶり出している。振り返ると、今の日本を見事に言い当てている。

 人類最大の「大災害」である気候変動は、地球スケールで「すべてを変える」恐れがある。本書は、その気候変動の危機を利用した地球規模の「ショック・ドクトリン」に警鐘を鳴らしている。

 1%の人たちは「気候変動はウソだ」という声を広げ、一刻の猶予もない気候変動への対策を遅らせ邪魔をしてきた。そのためアメリカでは、気候変動問題が科学の問題ではなくイデオロギー対立に陥ってしまった。

 気候変動対策さえ、1%のビジネスの食いものにしてきた。市場原理主義が気候変動対策の中にも入り込み、炭素クレジットという「汚染する権利」を取引する市場は、「対策」と見せかけながら対策を遅らせてきた。そこに一部の大手環境保護団体までも手を貸してきたとも批判している。

 本書は、気候変動がもたらし得る切迫した全世界的な危機に対して、社会や政治を望ましい方向に変えていくために、民衆の下からの根源的で大胆な転換を求めている。

 ところで、本書には大きな見落としがある。原著が2014年の刊行なのでやむを得ないが、15年のパリ協定の成功、そしてここ数年の自然エネルギーや電気自動車の大躍進が触れられていないのだ。風力発電や太陽光発電が既存の原発産業や石炭産業を崩壊させつつあり、電気自動車が10年以内にガソリン・ディーゼル車を駆逐するという予測さえ出てきた。

 著者が期待した「下からの根源的で大胆な転換」は、今まさに起きているのだ。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  2. 2

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  3. 3

    中居正広氏は法廷バトルか、泣き寝入りか…「どちらも地獄」の“袋小路生活”と今後

  4. 4

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  5. 5

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  1. 6

    開星(島根)野々村直通監督「グラウンドで倒れたら本望?そういうのはない。子供にも失礼ですから」

  2. 7

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  3. 8

    風間俊介の“きゅるるん瞳”、庄司浩平人気もうなぎ上り!《BL苦手》も虜にするテレ東深夜ドラマの“沼り力”

  4. 9

    前代未聞! 広陵途中辞退の根底に「甲子園至上主義」…それを助長するNHK、朝日、毎日の罪

  5. 10

    山下美夢有が「素人ゴルファー」の父親の教えでメジャータイトルを取れたワケ