著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

原発立地による地域経済への恩恵は「神話」

公開日: 更新日:

「崩れた原発『経済神話』」 新潟日報社原発問題特別取材班著/明石書店 2000円+税

 世界最大の原発が集中する新潟県の柏崎刈羽原発。新潟はいくつもの意味で、福島と「一つの組み紐」のように絡まり合ってきた。

 いずれも東京電力のエリア外にもかかわらず原発が集中し、首都圏への電力供給基地となっている。2007年の中越沖地震で、東京電力には危機への備えが全くないことが明らかになったが、ほぼ無策のまま福島第1原発は東日本大震災に襲われ、みすみすメルトダウンを引き起こした。故吉田昌郎所長が指揮を振るった免震重要棟は、より深刻な事態を回避することができた「最後の命綱」となったが、これこそが中越沖地震の教訓で唯一、直前に整備された対策であった。

 そして、福島第1原発事故の収束や賠償費用が膨れ上がる東京電力にとって、柏崎刈羽原発は経営再建の「命綱」ともいえる位置付けとなっている。ところが昨年10月の知事選で、再稼働反対を掲げる新人の米山隆一氏が、市民と野党連合の支援を受け、事前の大方の予想を覆して当選したのだ。

 新潟日報の取材班は、そこに追い打ちをかける。原発の立地する柏崎市は、同県内で原発のない三条市や新発田市と比べて、人口でも産業やサービス業でもその波及効果でも、地域経済への恩恵は「神話」であることを丹念に実証してみせたのだ。

 では、何のための誰のための再稼働なのか、本書は疑問を突き付ける。

 1996年の巻原発住民投票や2001年の刈羽村プルサーマル住民投票など、新潟は「国策としての原発」に民意を通して一石を投じてきた歴史がある。その民意を受けて誕生した米山知事は、福島事故の検証をせずに再稼働の議論には入れないとの公約通り、8月に新たな委員会を発足させた。

 古今東西の歴史は「周縁からの変革」を教えてくれる。新潟の民意がやがては「国策」を覆すのか、今後の展開から目が離せない。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  5. 5

    「NHKから国民を守る党」崩壊秒読み…立花孝志党首は服役の公算大、斉藤副党首の唐突離党がダメ押し

  1. 6

    国民民主党でくすぶる「パワハラ問題」めぐり玉木雄一郎代表がブチ切れ! 定例会見での一部始終

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  3. 8

    男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し

  4. 9

    長女Cocomiに熱愛発覚…父キムタクがさらに抱える2つの「ちょ、待てよ」リスク

  5. 10

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ