著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

クルマを不便にし、道路を暮らしの空間に

公開日: 更新日:

「ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか」 村上敦著/学芸出版社 2200円+税

 仕事柄、全国各地の地方都市をよく訪れるが、その地の風土の面白さの前に「廃れ感」が気に掛かる。金太郎アメのようなファストフード店やコンビニに消費者金融が並び、そのスキマを時間貸し駐車場とシャッター街が埋める。

 そうした日本の地方都市に対して、欧州の地方都市はなぜあれほどに人で賑わい豊かさを感じるのか。誰もが感じる疑問に、本書はドイツと対比しつつ真正面から切り込む。

 地方の中核都市として同規模の青森とフライブルクを比較しつつ、住宅とまちが連動して空いていく日本の住宅政策の失敗を指摘する。消費財のように住宅を造り続けることを奨励し、空き家を抑制する都市政策もない。その結果、日本の都市は人の半生の寿命で衰退する。これでは持続可能な都市どころか、消滅都市も現実味を帯びる。

 著者が前著「キロワットアワー・イズ・マネー」で提唱した考え――地域での省エネ・再エネ投資が地域経済を活性化する――に加えて、本書では「キロメートル・イズ・マネー」を提唱する。マイカー依存社会から徒歩・自転車・公共交通中心に切り替えると、外部に流出していた移動費用が地域内で循環し、地域経済を活性化するという考えだ。

 さらに著者は「渋滞は問題ではなく」クルマをもっと不便にし、道路を暮らしのための空間に取り戻せと主張する。日本人には「過激」な主張だが、ひと中心のまちづくりは賑わいの要だ。ドイツの地方都市との差を見れば一目瞭然だろう。

 日本の地方都市の現実は厳しい。筆者が指摘する通り、人口減少で再投資の余裕がない中、地方は高齢化、低教育化、低所得化・貧困化が加速する。住宅政策と都市計画と交通政策の3つを大胆に転換し統合する必要がある。行政の縦割りが強烈な日本では難しいが、もはや猶予はない。

 私たちは自分たちのまちを再生できるのか、突きつけられた課題は重い。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か