ゴッホの筆触で描いたアニメ映画

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 壁に掛けた油絵の人物が突然、動きだしたら?それを暗闇で目撃したら?――と、こんなあり得ない話が現実になった。先週末から公開中の映画「ゴッホ 最期の手紙」である。

 ゴッホといえば近代絵画の夜明けの時代にたまたま絵筆に巡り合った独学の鬼才。教会で働けば、自分の衣服から教会の資材まで文字通りすべてを貧者に与えて解雇された偏狭の人。

 そして、あの異様な迫力をたたえた作品の数々と、自殺とされながらも凶器の銃は行方不明のままという謎の死。

 その昔、カーク・ダグラスがそっくりに演じた「炎の人ゴッホ」は典型的な“狂気の天才”を描く伝記映画だったが、本作は最愛の弟テオに宛てた未配の手紙を持つ青年が死の真相に迫るというミステリー物語を、あのゴッホの筆触で描いたアニメ

 通常のセル画の代わりに6万2450枚の油絵を新たに描かせ、それを6Kのデジタルカメラで撮影したという、まさに前代未聞の映画なのだ。

 この「油絵が動きだす」驚きは自ら目の当たりにしてもらうほかないが、見終えて真っ先に思ったのが世界中から125人の油彩画家を募集したというポーランド出身のドロタ・コビエラ監督の7年間にわたる執念。そして連想したのが、文芸評論家・小林秀雄の有名な「ゴッホの手紙」(新潮社 1600円)だ。小林の批評の中でも特に物に憑かれたような筆致が特徴のこの本は、ゴッホの異様な迫力に打たれた彼が寝食忘れて膨大な書簡集を耽読して「告白文学の傑作」と断じた、それ自体、執念にも似た思索の産物なのである。

 <生井英考>

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