「田舎暮らしと哲学」木原武一著
1975年、広々とした田園で子どもを育てたいと、著者は房総の夷隅町に引っ越した。まだ町営水道が引かれていなかったので井戸を利用したが、日照りによる渇水ですぐ枯れてしまう。別に深い井戸を掘ってもらったら水の心配はなくなったが、出てきたのは薄い褐色のにおいのある水。辺りは天然ガスの鉱区で、それが地下水に溶け込んでいるという。妻と3歳の息子はいつでも温泉に入れると大喜びだが、炊事には向かない。雨水をためて「雨水ご飯」を炊いたが一度でやめた。水道が開通したのは2年9カ月後だった。
20年後、浅い井戸を埋めようとしたら、工務店の社長が「地霊のたたりがある」と言う。田舎暮らしのさまざまな発見をつづるエッセー。
(新潮社 1700円+税)