思い出の味に出合える「食」の探偵事務所

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「鴨川食堂」柏井壽著/小学館文庫570円+税

 あるアンケートによると、「思い出の味」といって浮かぶのは、寿司、カレーライス、すき焼き、お子さまランチなどが上位を占め、「おふくろの味」は、これに炊き込みご飯、卵焼き、肉じゃがといった手作り感の強いものが加わる。しかし、その具体的な味付けとなると千差万別。しかも、その味がそれぞれの思い出と結びつくとなれば、特定するのは難しい。その困難な問題を解決してくれるのが、本書の舞台、京都にある鴨川食堂だ。

【あらすじ】東本願寺近くにある鴨川食堂は、父・流と娘・こいしが営む食堂。しかし看板もなく見つけにくい。唯一の手がかりは、料理雑誌「料理春秋」に掲載される〈鴨川食堂・鴨川探偵事務所――“食”捜します〉の1行広告。ここへ来れば、忘れられない食べ物にもう一度出合えるという「食」の探偵事務所でもあるのだ。

 最初のリクエストは、15年前に亡くなった妻が作っていた鍋焼きうどん。再婚する妻に自分の一番の好物である亡き妻の鍋焼きうどんの味を伝授したいというが、そこには思い出という調味料が加味されている。

 次の女性は、55年前に男性からプロポーズされたときに食べたビーフシチューらしきもの。覚えているのは男性の名前の一部と店に行く途中に鎮守の森があったこと。その他、酢飯が黄色く沖縄関係が味の決め手だという鯖寿司、亡き母が作ってくれた肉じゃがで、記憶は「おいしかった」だけ……。

 このわずかな手がかりから食の名探偵・流は超難問を見事に解いていく。

【読みどころ】味というものがいかに親しい人との思い出に結びついているかを教えてくれる人情味あふれる作品。そこにミステリー風味も加わり、独特の味わいある本シリーズは、現在5巻まで刊行中。 

 <石>


【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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