両親を捜してキッチンワゴンで全国巡り

公開日: 更新日:

「佳代のキッチン」原宏一著 祥伝社文庫/648円+税

 オフィス街で、昼時になるとキッチンカーの前でお弁当を買うために並ぶ行列を見かける。販売形態も、焼き鳥、ラーメンなどの屋台形式から、本格的なフレンチやイタリアンまでさまざま。

 本書は同じ移動販売料理でも、客が持ち込んできた食材でリクエストされた料理を作る「移動調理屋」というユニークな形態で全国を回るたくましき女性の物語だ。

【あらすじ】中学を卒業する間際のある日、佳代の両親は家を出たきり帰ってこなかった。身寄りもなく、5歳下の弟と2人で生きていくしかない佳代だったが、不幸中の幸い。両親が留守がちだったため、幼稚園の頃には自分でお弁当を作るなど毎日包丁を握っていたので料理の腕が磨かれた。おかげで給食センターの職を得て、弟を大学まであげることができた。その弟が経済新聞社に就職が決まったとき、佳代は決心する。自分たちを置き去りにした両親を捜し出そうと。そうして始まったのが「移動調理屋」だ。

 中古のキッチンワゴンを路上に止め、客の持ってきた食材を好みの料理に仕立てる。料理代は1品500円。一時期、両親が住んでいたという東京・中野区の新井薬師を起点に、横須賀、京都、松江、押上、盛岡、函館、彼らの足跡をたどりながら佳代のキッチンワゴンも全国を巡っていく。行く先々でさまざまな人たちと出会うことで、両親の失踪の秘密が徐々に明らかに……。

【読みどころ】秘密の解明もさることながら、魅力的なのは本書に登場する料理の数々。卵クリームバターを溶かした鍋で焼く「ふわたま」、古くなった鮓を天ぷらにする「鮓天」、魚介のだしとパンダンリーフで炊き上げた「魚介めし」など、思わず生つばが湧いてしまう。続編の「女神めし」も併読を。 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 2

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    安倍元首相銃撃裁判 審理前から山上徹也被告の判決日が決まっている理由

  5. 5

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  1. 6

    マツコ・デラックスがSMAP木村拓哉と顔を合わせた千葉県立犢橋高校とは? かつて牧場だった場所に…

  2. 7

    自民党は戦々恐々…公明党「連立離脱」なら次の衆院選で93人が落選危機

  3. 8

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで

  4. 9

    万博協会も大阪府も元請けも「詐欺師」…パビリオン工事費未払い被害者が実名告発

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希の抑え起用に太鼓判も…上原浩治氏と橋本清氏が口を揃える「不安要素」