「日本一の『デパ地下』を作った男 三枝輝行ナニワの逆転戦略」巽尚之著

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 経営者の一代記というと、艱難辛苦を乗り越えて会社を大きくした個性豊かなオーナー社長を思い浮かべないだろうか。しかし、本編の主人公はサラリーマン社長。新卒で阪神百貨店に入社、課長、部長、取締役、ついには社長に上り詰めた人物である。常識や前例にとらわれず、遠慮も保身も忖度もない。自分の価値尺度を持ち、良いと思ったら絶対に引かない。著者は、三枝輝行の会社人生を人気漫画の主人公・島耕作に重ねる。日本の企業社会にも、こんなサラリーマンが実在したのだ。

 昭和15年、兵庫県加西市で生まれ、小学生のとき、母が結核で入院。一人っ子の彼は、母の不在に耐え、バス会社を経営する父に迷惑をかけまいと、幼な心に自助の精神を芽生えさせる。母は帰らぬ人となり、彼が中学2年のとき、父が再婚。継母と折り合わず、大学入学を機に東京へ。人に頼らず、自ら決断し、行動する人格が形成されていった。

 昭和38年、阪神百貨店に入社。新入社員研修をサボって映画を見に行く不真面目な新人だったが、メキメキ頭角を現していく。隣にある格上の阪急百貨店の鼻を明かそうと奮闘し、武勇伝は数知れず。紳士洋品売り場の主任になると、勝手にオリジナルブランドを立ち上げ、高飛車な大手アパレルメーカーを売り場から締め出し、理不尽な担当役員に抗して出社拒否。仕事はできるが異色過ぎて、組織のはみ出し者になりかねないが、そんな三枝の実力を見抜き、援護する上司たちがいた。

 平成7年、ついに社長となり、ワンマンぶりに拍車がかかる。当時、どの百貨店も利益率の低い食品には見向きもしなかったが、三枝は周囲の反対を押し切って食品売り場の大改革に着手。地方でうまいものを見つければ自ら出店を交渉し、客を引きつけるイベントを実施し、デパ地下を祭りの空間に変えていった。その後のデパ地下ブーム到来はご存じの通り。サラリーマンだって、ここまでできる! 発想のヒントに満ち、勇気を与えてくれる半生記。

(集英社インターナショナル 1600円+税)

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