「くよくよしない力」フジコ・ヘミング著

公開日: 更新日:

「自分の夢のために努力して、きちんと準備していれば、チャンスは必ず訪れる」

「人間はいくつになっても素晴らしいことがたくさんできる。今より前に進むことを考えていれば、心は年をとらない」

 ピアニストのフジコ・ヘミングが、苦難に満ちた人生から学びとったことを、言葉の花束にした。悲喜こもごものエピソードを通して、彼女の人生が浮かび上がってくる。

 ロシア系スウェーデン人の父と日本人の母の間に、ベルリンで生まれたフジコは、5歳で母にピアノを習い始めた。ピアノ教師だった母は、娘をピアニストにすべく、厳しいレッスンを課した。しかし、16歳のとき中耳炎をこじらせ、右耳の聴力を失ってしまう。それでもピアニストの夢を諦めず、東京芸大とベルリン音楽学校で学んだ。

 父との別離、いじめ、異国での貧困生活に耐えて練習に励み、いよいよピアニストとしての一歩を踏み出すチャンスになるはずだったコンサートの直前、風邪と疲労で左耳も聴こえなくなった。大きな挫折。生きる力を失いかけたどん底の時代を支え、心を癒やしてくれたのは、猫と音楽だった。

 1999年、プロの演奏家になることを諦めていたフジコに、奇跡が起こる。NHKのドキュメンタリー番組「フジコ~あるピアニストの軌跡~」が大きな反響を呼び、デビューCD「奇蹟のカンパネラ」が200万枚を超える大ヒット。人生の後半で、舞台で脚光を浴びる日々が始まった。

 フジコのピアノはクラシック音楽を知らない聴衆の心も掴んだ。その一方で、批評家やクラシック音楽通は冷ややかだった。でも、フジコはめげない。折れない。くよくよしない。

「人は人、私は私。人と違って何が悪いの。私は人と違う生き方がいい」

 フジコの心から湧き出した言葉には、人を勇気づける力がある。

(秀和システム 1300円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言