「アイダ・ターベル」古賀純一郎著

公開日: 更新日:

 アイダ・ターベルは調査報道のパイオニアとして高い評価を受けている米国の女性ジャーナリスト。19世紀半ばに生まれ、オイルラッシュに沸く東部の油田地帯で育った。父は木工職人で、石油を詰める樽を製造していた。

 成長したターベルは、女性では珍しかったジャーナリストとなり、ジョン・ロックフェラー率いる独占企業、スタンダード石油の悪辣で無節操な経営手法を暴く記事を書いた。

 ターベルが活躍した時代は、米資本主義の揺籃期。続々と生まれたビッグビジネスが市場独占を目指し、札束の力で政治家や役人を操っていた。社会派の総合誌「マクルアーズ」に所属していたターベルは、トラストの王者、スタンダード石油に的を絞った調査報道を行い、2年間にわたって連載した。公的文書をはじめとする膨大な資料を読み込み、分析、解剖。関係者への取材を重ねた。連載が進むうちに内部告発者も現れた。有能な助手や気心の知れた同僚に恵まれ、ターベルは、闘うジャーナリストとして、革新的な記事を書いた。この連載は「スタンダード石油の歴史」の名で歴史に残っている。

 大企業規制を断行し、トラストバスターと呼ばれた第26代セオドア・ルーズベルト大統領は、ターベルの連載を愛読していたという。

 スタンダード石油は反トラスト法違反で約40の会社に分割され、ロックフェラー帝国は解体した。ターベルの調査報道が米資本主義を根底から変えたのである。

 ターベルはその後も政財界の大物を取材、生涯独身を貫き、ジャーナリストとして生き抜いた。先駆的なキャリアウーマンだった。

 ネット上にフェイクニュースがあふれている今、地道な調査報道の重要性は高まっている。ターベルの足跡は、ジャーナリズムには社会を変える力があることを、強く訴えかけてくる。

 (旬報社 2800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘