著者のコラム一覧
島田裕巳

1953年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。宗教学者、作家。現在、東京女子大学非常勤講師。「葬式は、要らない」「死に方の思想」「日本の新宗教」など著書多数。

「天皇と儒教思想」小島毅著

公開日: 更新日:

 伝統ということばを辞書で引いてみると、「ある民族や社会・団体が長い歴史を通じて培い、伝えて来た」(「広辞苑」)ものとある。つまり、昔から続いてきたものが伝統だというわけだ。

 ところが、伝統とされているものが実は最近になって生まれた例は少なくない。たとえば、神社で二礼二拍手一礼が正式な作法だとされ、皆それに従っているが、このやり方が普及するのは最近のことである。神社界をまとめる神社本庁がその普及をめざしたことによる。神道が日本に生まれてからの伝統だと考えてしまうと、大きく間違うことになる。

 本書で最初に取り上げられている天皇の稲作りになると、なんと昭和天皇が生物学的な関心からはじめたものである。だから、田植えを行う天皇はワイシャツ姿で長靴をはいている。まるで神事の形式をとっていないのだ。

 これをきっかけに、本書では山稜、祭祀、皇統、暦、元号が取り上げられる。

 古代の天皇を埋葬した山稜(いわゆる古墳)への関心が生まれたのは江戸時代になってからである。皇居にある宮中三殿の一つ、代々の天皇や皇族の霊を祭った皇霊殿も、明治になってはじめて生まれたものである。

 今日のような形で代々の天皇が定められたのも明治になってからで、それまでは神功皇后も天皇のなかに加えられていた。

 どの暦を使うかは重要だが、明治政府はそれまでの伝統的な暦を廃して、あっさりと西洋のグレゴリオ暦を採用してしまった。だから、七夕が梅雨のさなかにやってきてしまうのだ。

 著者の専門は中国思想史なので、とくに皇霊殿の問題や元号のことになると、中国儒教の知識が生かされている。

 元号は吉事が起こったり、災いが起こったとき、改元して、時代の空気を変えるためのものでもあるが、明治になって天皇の代が続くあいだ改元しないというやり方が定められた。そこには、儒教を革新した朱子学の影響があり、それは明の制度を真似たものなのである。

 来年の天皇の代替わりをめぐって混乱が生じているのも、中国では清朝の滅亡で元号そのものが消滅し、モデルが失われたからかもしれないのである。(光文社 860円+税)

【連載】宗教で読み解く現代社会

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 4

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  5. 5

    狭まる維新包囲網…関西で「国保逃れ」追及の動き加速、年明けには永田町にも飛び火確実

  1. 6

    和久田麻由子アナNHK退職で桑子真帆アナ一強体制確立! 「フリー化」封印し局内で出世街道爆走へ

  2. 7

    松田聖子は「45周年」でも露出激減のナゾと現在地 26日にオールナイトニッポンGOLD出演で注目

  3. 8

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  4. 9

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 10

    実業家でタレントの宮崎麗果に脱税報道 妻と“成り金アピール”元EXILEの黒木啓司の現在と今後