著者のコラム一覧
島田裕巳

1953年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。宗教学者、作家。現在、東京女子大学非常勤講師。「葬式は、要らない」「死に方の思想」「日本の新宗教」など著書多数。

「東大寺のなりたち」森本公誠著

公開日: 更新日:

 著者は、2004年から07年まで奈良・東大寺の第218世別当、ならびに華厳宗管長を務めたことがあり、現在は東大寺長老である。ただ異色なのは、京都大学で学んだイスラム学者でもあることである。私は一度、著者の講演を聞いたことがあるが、東大寺の法華堂の修復工事から明らかになってきたことについて、理路整然と説明されたことに感銘を受けたことがある。

 その経験があったので、さっそく本書を買い求めた。タイトルから予想されるように、東大寺がどのように生み出されたのかについて詳しく説明されている。さらには、東大寺の有名な大仏が造られてからおよそ100年後に、その首が落ち、その修復作業がどのように行われたかも詳しく説明されている。修復作業の功労者である木工忌部文山について、これまでは詳細が明らかになっていなかったらしい。

 ただ、予想とは異なるのは、朝廷内部における抗争についてかなり詳しく述べられていることである。

 そこには何より、東大寺の創建や大仏の建立が、聖武天皇の発願で行われたことが影響していた。それは国家事業であり、国家と深く結びついた僧侶の組織も関係するし、外交も関わっていた。大仏の開眼供養が行われた後には、朝鮮半島の新羅の国から大使節団が派遣された。

 それ以前、新羅との関係は緊迫していた。それでも、新羅が朝貢という形で日本に屈するような態度をとらざるを得なかったのも、大仏建立の背景には「華厳経」の思想があり、新羅では、「華厳経」が広まっているため、日本の試みを無視できなかったからである。

 現代では、宗教と政治は分けて考えられている。しかし、古代においては、両者は密接に結びつき、むしろ一体の関係にあった。だからこそ、国家の安泰を図るために大仏が建立されたわけである。

 その分、東大寺をめぐって、朝廷内の政争が深く関わってくるわけである。とくに奈良時代末期から平安時代初めは、天皇の位を誰が継ぐかで深刻な対立が生まれた。本書を読んで奈良の大仏を拝んだなら、なんとしても平和な国家をつくろうとした聖武天皇の強い思いが感じられるかもしれない。

(岩波書店840円+税)

【連載】宗教で読み解く現代社会

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  2. 2

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か

  5. 5

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  1. 6

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  2. 7

    三山凌輝に「1億円結婚詐欺」疑惑…SKY-HIの対応は? お手本は「純烈」メンバーの不祥事案件

  3. 8

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  4. 9

    佐藤健と「私の夫と結婚して」W主演で小芝風花を心配するSNS…永野芽郁のW不倫騒動で“共演者キラー”ぶり再注目

  5. 10

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意