「日本が売られる」堤未果氏

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 市場開放や規制緩和など、聞こえのよい言葉を隠れみのにして進む外資への「日本売り」。その魔の手は日本の公的資産にまで及び、政府によって叩き売りされている。本書では、大手マスコミが報道しない日本解体の舞台裏を明らかにしながら、文字通り“売国”と呼べる状況に警鐘を鳴らしている。

「水に米、農地、海、国民皆保険に食の安全など、日本が世界に誇る資産に今、どんどん値札が付けられています。そして、財界と投資家たちは市場になると見込むや否や法律にまで圧力をかけ、忖度政府は粛々とその要求に応じています」

 水と安全はタダ同然と言われてきた日本だが、“命のインフラ”である水道も民営化に向かって突っ走っている。現在、全国の水道管のおよそ1割が耐用年数を超えているが、自治体財政は火の車。そこで政府が打ち出したのが、自治体への支援ではなく投資家たちが推進する手法。つまり水道を企業に売り渡す民営化だ。

「民営化推進派は“サービスの質が上がり料金は下がる”といつものフレーズを使っていましたが、複数の電力会社が送電網を共有する電力とは異なり、水道は1地域につき1社独占。利用者を引き付けるためのサービスの充実や価格競争などは存在しません」

 2018年5月には、水道事業に関して公共施設の運営権を民間に渡し、企業が水道料金を決めて徴収できるPFI法を促進する法律が可決。企業に水道の運営権を売った自治体は、地方債の元本一括繰り上げ返済の際、利息が最大で全額免除されるというもので、本書には財政難の自治体の鼻先にニンジンをぶら下げた政府の巧妙なやり方がつづられている。

 そして7月には「水道法改正案」が可決。水道料金に関する部分を「公正妥当な料金」から「健全な経営のための公正な料金」とすることで、“企業の利益を保障する”ための値段設定ができるようになった。

「大半の国民はこの重大な法律が改正されたことの重大さに気づかなかった。このとき、日本中のマスコミは足並みを揃えてオウム真理教の死刑執行の話題一色。日本人のライフラインが売られることの危険について取り上げることはありませんでした」

 水道ひとつとってもこのありさまだ。著者は執筆前、海や農地など叩き売りされる資産ひとつにつき1冊ずつのシリーズ本を書こうと考えていたという。しかし、情報の速度が速く、多くの人が物事を点でしか捉えられなくなっている今、「日本売り」の全体像を1冊に示すことこそが事の重大性を最速で広く伝えられると気づき、百八十度企画を変更したそうだ。

「海が売られる、つまり漁業権が売られれば“漁師さんが大変”では済まされません。2019年にTPPが発効されると、漁業権は入札制になり、日本の漁協が資金力では太刀打ちできない外資が参入してきます。海は投資商品としても優秀で、漁業権を買い占めて転売すれば高値が付く。日本の国境は海ですから、漁業権を買われてしまえば商業船を装って海域に入れるし、テロもしやすくなるでしょう。漁協との交渉が高い壁となっていた原発の建設も、さらにハードルが下がるでしょう」

 すべてが線でつながっていて、どれも他人事ではないことに気づいてほしいと著者。日本を売ったツケが回ってくるのは、子どもや孫の時代だ。

「売らせない、あるいは売られたものを取り返すには、国民一人一人が事実を知ってNOを叫ぶこと。周囲に伝える、自治体の議員に意見や要望を送る、どんな小さなアクションも変化につながります。来年4月の統一地方選挙に向けて、ぜひ本書を役立ててほしい」

 (幻冬舎 860円+税)

▽つつみ・みか 国際ジャーナリスト。東京都生まれ。NY州立大学国際関係論学科卒業、NY市立大学大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村証券などを経て現職。「ルポ・貧困大国アメリカ」「沈みゆく大国アメリカ」「政府はもう嘘をつけない」「核大国ニッポン」など著書多数。

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