「地面師たち」新庄耕著

公開日: 更新日:

 地面師とは、他人の所有する土地を利用して金を騙し取る詐欺師のこと。大手住宅メーカーが巨額な被害に遭って世間を驚かせた事件は記憶に新しい。地面師たちの周到な手口を徹底的に取材し、リアルに描いたクライムノベル。

 デリヘルドライバーをしていた辻本拓海は、大物地面師・ハリソン山中に声をかけられた。拓海には壮絶な過去がある。実家の火災で母と妻と幼い娘を一度に失った。放火犯は、詐欺に遭って全てをなくし、無理心中を図った実の父親だった。ハリソンの誘いで拓海は闇の世界に身を置き、進んで罪を重ねていった。一方、定年間近の刑事、辰は因縁の相手ハリソンを捕まえることに執念を燃やし、老練の勘で手がかりを掴みかけていた。

 そうとは知らないハリソンは、大勝負に出る。うまくいけば儲けは100億円。ハリソンと拓海、土地情報収集役でシャブ中毒の竹下、土地所有者の「なりすまし役」を探して教育する麗子、司法書士くずれの後藤。この5人が結束し、周到な計画を実行に移す。騙す側、騙される側の心理はどちらも極限状態。息詰まる展開は詳細を極め、現実の事件を彷彿させる。

 そして、いっぱしの地面師になった拓海と老刑事が交差したとき、過去に深い根を持つ衝撃の事実が明らかになる。

 詐欺に手を染める人間の心情に肉薄し、時代の暗部をえぐった傑作長編。

 (集英社 1600円+税)


【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾