「黄金列車」佐藤亜紀著

公開日: 更新日:

 第2次大戦末期のハンガリー王国ではナチス・ドイツの傀儡政権が成立し、それに伴い大規模な反ユダヤ政策がとられた。1944年12月、敗色が濃厚となった政府は、戦後を見据えて、ユダヤ人から没収した大量の財産を列車に積み込んだ「黄金列車」を首都ブダペストからオーストリアへ移送することにした。

 物語は大蔵省の官吏でユダヤ資産管理委員会委員のバログの視点で描かれていく。列車には没収品の管理や警備を担う担当者とその家族、親衛隊、憲兵隊が乗り込み、途中、戦禍を逃れた難民や鉱夫、浮浪児らも加わる。

 彼らの中には列車に積まれた食料や酒、貴金属類を狙う者や賄賂として着服しようとする軍人と、それに対するバログら役人たちの虚々実々の駆け引きが淡々と語られ、合間にバログの妻の思い出やユダヤ人の友人の回想が挟み込まれ、意に染まぬ仕事に加担するバログの内面が描かれる。

 無理無体な要求に対して、法律と前例主義を盾に積み荷を守ろうとする役人たちのしたたかさは、現代日本への痛烈な批評ともなっている。

(KADOKAWA 1800円+税)



【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々