著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ムシカ 鎮虫譜」井上真偽著

公開日: 更新日:

 ヘンな話だ。虫たちが人を襲ってくる。ところが、音楽が聞こえた途端、その虫たちの動きがピタッと止まるのである。虫たちの怒りを鎮める音楽があるというのだ。

 日本では、小さくて獣とも魚とも呼べない生き物を、みんな「ムシ」と呼ぶようになっている、というのも興味深い。ヘビ、タコは、蛇、蛸と書く。虫偏である。タニシは、田螺だ。サザエ、ハマグリ、アサリ、カキは、それぞれ栄螺、蛤、浅蜊、牡蠣と書く。私たちの概念では、それらは貝に分類されているが、すべて「ムシ」なのである。

 こういう道具立てが次々に立ち上がってくる。私たちはいつの間にか、ムシたちの島に案内されるのだ。物語は5人の音大生が瀬戸内海に浮かぶ小さな無人島・笛島に赴くところから始まっていく。そこには音楽の神様が祭られているので、そこにお参りすればスランプも抜け出せるに違いない、と彼らは考えるのである。

 ところが彼らを襲ってくるのは、カメムシ、カマキリ、スズメバチ、ムカデ。謎の巫女が現れて音楽を奏でると、それらのムシの動きがピタッと止まるから、わけがわからない。なんなんだこの島は――。虫たちを鎮める笛は人間の骨で作られているらしく、なんだか彼らの命が狙われている雰囲気もある。怪しい人物は次々に現れるし、はたして彼らはこの島を無事に脱出できるのか。夏休みの冒険を描く、青春ムシ音楽ミステリーだ。

 (実業之日本社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情