著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「自転しながら公転する」山本文緒著

公開日: 更新日:

 牛久大仏が見える町に住む都を主人公にした長編だ。32歳の彼女は東京で働いていたのだが、親の介護のために故郷にUターンして、いまはショッピングモールのアパレルショップで働いている。回転寿司屋で働く貫一と付き合っていて、熱海に行って「貫一おみやの像」を見るシーンがあることに留意。

 自分たちも「貫一おみや」なので、2人で笑ったりするのだ。しかし、読者は笑えない。なぜなら、冒頭はベトナムでの結婚式なのである。日本人女性がベトナム人と結婚するようで、異国で始まる生活への不安と期待が渦巻いている、というプロローグだ。

 で、物語が始まると、貫一が連れていってくれたのがベトナム料理屋で、そこでベトナム人のニャン君と知り合うという展開がある。そのベトナム料理屋はニャン君のお兄さんが経営している店で、ニャン君一族はベトナムでは金持ちらしい。これでは、都が貫一と別れてニャン君と結婚するのかと、この先の展開を推理してしまうのも無理はない。

 家族のこと、仕事のことなど、都を取り巻く日々が、秀逸な人物造形と巧みな挿話で、実に巧妙に語られていることにも急いで触れておく。それを読むだけでも十分に面白いのだが、それをプロローグがスリリングなものにしてしまう、と言い換えよう。

 山本文緒、7年ぶりの新刊だが、相変わらず絶妙で、新鮮で、読み始めたらやめられない。一気読みの傑作だ。 (新潮社 1800円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  2. 2

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  3. 3

    やす子「ドッキリGP」での言動が物議…“ブチ切れ”対応で露呈してしまった芸人の器量と力量

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    中央学院戦の「1安打完封負け」は全部私の責任です。選手たちにもそう伝えました

  1. 6

    菊池風磨率いるtimeleszにはすでに亀裂か…“容姿イジリ”が早速炎上でファンに弁明

  2. 7

    タレント出身議員の“出世頭” 三原じゅん子氏の暴力団交遊疑惑と絶えない金銭トラブル

  3. 8

    巨人の正捕手争い完全決着へ…「岸田>甲斐」はデータでもハッキリ、阿部監督の起用法に変化も

  4. 9

    ドジャース大谷翔平の突き抜けた不動心 ロバーツ監督の「三振多すぎ」苦言も“完全スルー”

  5. 10

    萩生田光一氏「石破おろし」がトーンダウン…自民裏金事件めぐり、特捜部が政策秘書を略式起訴へ