「闇の脳科学」ローン・フランク著 赤根洋子訳 仲野徹解説

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 かつて、脳深部への電気刺激でホモセクシュアルの男性を異性愛者につくりかえる狂気の実験を行った精神科医がいた。その名をロバート・ガルブレイス・ヒース。精神疾患の治療法が、電気ショック療法かロボトミー手術、または精神分析だった1950年代、彼は患者の脳深部に電極を埋め込み、統合失調症やうつ病など精神のあらゆる症状を治療しようと試みた。

 セロトニンなどの神経伝達物質の働きがまだ発見されていなかった時代に、電気刺激で脳の特定領域の活動を調整しようとした彼の試みは、ある意味パイオニアだったのだが、著者は専門誌に全く彼の名が残っていないことに疑問を抱く。なぜ、彼の存在は無視されるようになったのか。

 本書は著者の疑問を起点に、ヒースが行った研究の軌跡と、それを引き継ぐ現代の脳科学の最前線を検証していく。

 脳を操る技術は、認知機能の低下を防ぐ名目で今後よりカジュアルに使用されたり、軍事転用されたりする可能性があると著者は言う。脳科学の技術利用は、どこまでが許され、どこからが冒涜なのか、本書は読者の倫理観に揺さぶりをかけてくる。

(文藝春秋 2000円+税)

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