「クララとお日さま」カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳

公開日: 更新日:

 主人公は「AF」(人工親友)として店頭販売されていたクララ。クララは旧型だがずばぬけた観察力と学習意欲を持ち、人の心を推論して理解する能力もあった。

 店のショーウインドーから外の世界を観察していたクララはある日、14歳の少女ジョジーと出会い、買い取られることに。一緒に暮らし始めるとジョジーが病弱であること、母親は娘の死を恐れるあまり、奇妙な計画を立てていることが分かってくる。クララは自分の役割はジョジーを助けることだと考え、周囲の人々から悲しみや愛情などさまざまな感情を学び、献身的にジョジーに尽くす。

 しかし、ジョジーの病気は重症化。クララはかつてショーウインドーから見た光景――道で倒れた人がお日さまの光で生き返った―――を思い出し、お日さまに「特別な助け」を願い、思い切った行動に出る。

 2017年のノーベル文学賞受賞後初となる長編小説。クララを語り手に、ジョジーとの出会いから別れまでを時間軸に沿って描いていく。

 善意の塊のようなクララの目に映る、格差社会や一種の優生思想など殺伐とした分断社会、そして心より科学に傾倒する人々の姿が痛ましい。

(早川書房 2750円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    農水省ゴリ押し「おこめ券」は完全失速…鈴木農相も「食料品全般に使える」とコメ高騰対策から逸脱の本末転倒

  3. 3

    TBS「ザ・ロイヤルファミリー」はロケ地巡礼も大盛り上がり

  4. 4

    維新の政権しがみつき戦略は破綻確実…定数削減を「改革のセンターピン」とイキった吉村代表ダサすぎる発言後退

  5. 5

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  1. 6

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  2. 7

    粗品「THE W」での“爆弾発言”が物議…「1秒も面白くなかった」「レベルの低い大会だった」「間違ったお笑い」

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  5. 10

    巨人阿部監督の“育成放棄宣言”に選手とファン絶望…ベテラン偏重、補強優先はもうウンザリ