「アメリカン・スパイ」ローレン・ウィルキンソン著 田畑あや子訳

公開日: 更新日:

 時は1992年。主人公の元FBI捜査官マリー・ミッチェルと2人の息子が暮らす自宅に男が侵入。格闘の末、男を射殺するシーンで物語の幕はあける。

 黒人女性のマリーは1980年代にFBIニューヨーク支局に所属。しかし、その属性から活躍の場を与えられず将来に希望を失っていた。そんなある日、マリーはCIAから潜入捜査を依頼される。ブルキナファソの大統領に近づき、CIAが彼の政敵に関与していることに気づいているかどうかを探る任務だ。マリーは事故で亡くなった姉を愛していたというCIA職員との接触を条件に任務を請け負う。

 マリーは難なくブルキナファソの大統領トマ・サンカラへの接近に成功。しかし、任務を続ける中でトマに強く引かれていき――。

 史実をもとに1人の女性の半生を描いた長編スパイ小説。ターゲットとなったトマ・サンカラはアフリカのチェ・ゲバラと呼ばれた実在の人物だ。

 本書は主人公が息子たちに自分の人生を語る手記という形式をとり、マリーの子供時代を過ごした60年代のニューヨークから息子たちの父親についてまで語られる。スパイ小説としての娯楽性を持ちながら、人種やジェンダーにまで踏み込んだ読み応えのある一冊だ。

(早川書房 2530円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも