著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「天使と嘘」マイケル・ロボサム著 越前敏弥訳

公開日: 更新日:

 すごいシリーズが始まった。翻訳ミステリーのファンに、絶対のおすすめだ。

 主人公は、臨床心理士のサイラス・ヘイヴン。彼が児童養護施設で、ひとりの少女と出会うところから本書が始まっていく。その少女の仮の名前はイーヴィ・コーマック。なぜ仮の名前なのかというと、身元不明だからだ。6年前に男の腐乱死体が発見された民家の隠し部屋にいるところを警察が救出。11、12歳と推定されたが、体重はその半分の年齢の子供よりも少ない。髪は伸び放題で、目つきは鋭く、野生の動物のようだった。その後は児童養護施設に収容されるも、周囲と馴染まず、問題を起こしまくる。そのイーヴィをサイラス・ヘイヴンが引き取って、一緒に暮らすのが物語の真の始まりだ。イーヴィ・コーマックはヘイヴンに気を許さず、ずっと反抗姿勢のままだから、ヘイヴンも大変である。

 今回はまだ本格的なコンビ捜査が始まっていないが(現場に同行するシーンは出てくるが)、他人の嘘を見抜くという特殊能力で、この少女がヘイヴンの捜査を助けていくシリーズになるものと予想される。このヘイヴンの個性が他を圧している。

 まだ第1巻なので、語られていないことが多い。たとえば、サイラス・ヘイヴンが幼いころ、両親と双子の妹を惨殺した兄は、いまも刑務所にいるが、いずれは面会することになるだろう。そういう不穏な空気をはらんだまま、いまシリーズが幕を開けたのである。

(早川書房 1210円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本は強い国か…「障害者年金」を半分に減額とは

  2. 2

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  5. 5

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  1. 6

    侍Jで加速する「チーム大谷」…国内組で浮上する“後方支援”要員の投打ベテラン

  2. 7

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」