「二千億の果実」宮内勝典著

公開日: 更新日:

 私の名はルーシー。ずっと樹上で暮らし、枝を掴んでいたから5本の指が開いた。ある時、イチジクの実を見つけ腕を伸ばしたら木から落ちてしまった。やがて雨が降り、わたしは土砂に埋もれていった。それから300万年くらいかけて、私の骨は地中で硬い石に変わった。

 私を見つけたのは白い子孫、2人の学者だ。骨を並べ、私が立って歩いていたことに気づいた。脳容積が夏みかんくらいのことも……。

 本書は化石人骨と娼婦の少女「ルーシー」の物語で始まり、中国東北部で終戦を迎え、赤ん坊“i”とともに帰国した女性の足取りを描く「噴火口」、青年となったiと革命家の対話「幻の国」など、登場人物らが緩やかにつながっていく26の短編から成る物語。舞台はアフリカ、南米、中国、東京、時代も戦後や現代などを行き来し、引き揚げ者や2世、9.11のテロなど人類がつくってしまった「歴史」を背景に織り込みながら展開し、人類の足跡をたどる。そして鳥瞰(ちょうかん)された地球上の出来事に、未来はどうなるのか、と考えずにはいられない。

「世界を見極めたい」と世界70カ国を旅した著者が紡ぐ、壮大な物語。

(河出書房新社 2475円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも