「文明開化に抵抗した男 佐田介石 1818―1882」春名徹著

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 佐田介石という名前を初めて知ったのは40年近く前、松山巖の「土足と代用品」という文章(後に「まぼろしのインテリア」に収録)でだった。明治の文明開化期に天動説を唱え、ランプが各家庭に入ると16の大害が生じるという「ランプ亡国論」を宣揚するなどの奇矯な言説で、一部の熱狂的な支持を得ていた人物だ。以来、ほとんどその名を目にすることはなかったが、本書は、その佐田介石の初めての本格評伝である。

 佐田介石は文化15(1818)年、肥後熊本に生まれた。幼少から神童の呼び声高く、18歳で京都・西本願寺の最高教育機関、学林に遊学。25歳で故郷に戻り庵を結び思索にふけり、30歳で再び京都へ上り、天龍寺の禅僧・環中のもとで仏教天文学を本格的に学ぶ。ここで彼は「視実等象」という独自の理論を打ち立てる。世界の中央に須弥山がそそり立ち、その中腹を太陽と月が回っているというのが大宇宙の「実象」なのだが、人間が見て認識しうる「視象」ではあたかも大地が動いているように錯覚してしまうのだ、と。後にこの須弥山宇宙を表現したゼンマイ仕掛けの「視実等象儀」という器械を作り、天動説の布教に努めた。

 しかし世の中は、介石をあざ笑うように舶来品を尊重し文明開化の道をひた走る。そんな動きに異を唱える介石は何通もの建白書を草し、それがいれられないと今度は辻説法に転じ、輸入品の到来によって国産品がいかに害を被っているかを説いていく。その最も有名なのがランプ亡国論であり、それらすべてを消費経済の観点から論じているのがユニーク。

 ともすれば「奇人」として歴史の枠外に置かれることの多かった介石だが、著者はその生涯と事跡を丹念にたどることによって、近代という時代を照らし返す論客としてきちんと歴史の中に位置づけている。著者が介石を調べ始めたのは1981年。先の松山の論考も著者のアドバイスを得たという。40年を経て浮上した介石は、資本主義が行き詰まっている現代に何を訴えてくるのだろうか。 <狸>

(藤原書店 4840円)

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