「池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 ロシアに服属するか、敵となるか」池上彰著/小学館

公開日: 更新日:

 ロシアのウクライナ侵攻は、世界の構造を変化させる重大な事件だ。現在、マスメディアの報道はウクライナと米国が流すストーリーに沿っている。戦時下で対立する国家はそれぞれ、自らに都合がよい情報(それには情報操作も含まれる)だけを流すので、事態の本質をとらえることが難しい。この点、本書はロシアのウクライナ侵攻が国際法違反で断罪されるべきだという立場を明確にした上で、正確に情勢を判断しようとしている。

 まず、池上氏はこの戦争に、ロシアによるウクライナ侵略とウクライナの内戦の両要素があることを指摘する。

<ウクライナの東部には昔からロシア系住民が住んでいましたし、ソ連時代に移ってきたロシア人も多いのです。ウクライナが独立をし、西側と一緒になりたいとなると、ウクライナの東部にいるロシア系の住民が「ロシアから離れるなんてけしからん」と、こういう対立の構図ができてしまいました。ウクライナの西側はEUと一緒になりたい親EU派、東側はロシアと一緒になりたいという親ロシア派に分かれて、ここで内戦状態のようなことになったのです。きっかけは2014年に起きたロシアのクリミア併合でした>

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、クリミアが同国の主権下にあることを認めるのが和平の絶対条件だと繰り返し述べている。それではクリミア住民の民意はどうなっているのだろうか。

<私はこのクリミア半島に、ウクライナの時に1回、それから、ロシアに占領されてから1回、それぞれ行ってきました。確かに国際社会から見れば、クリミア半島をロシアが奪い取ったわけでしょう。国際法違反ですよね。明らかにこれは侵略行為です。/ところが、ロシアは、クリミア半島を自分のものにしたので、クリミアの人たちの生活を改善しなければいけないと考え、行動しました。たとえば、年金の支給額を引き上げたり、さまざまなインフラ整備を始めたりしました。結果的に、クリミア半島にいる人たちの多くが、「ロシアのものになってよかった」と言っていました。皮肉なものです>

 クリミア住民の大多数はウクライナに帰属したいと思っていないというのが現実だ。

 ★★★(選者・佐藤優)

(2022年4月15日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    コメ増産から2カ月で一転、高市内閣の新農相が減産へ180度方針転換…生産者は大混乱

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  4. 4

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  5. 5

    ヤクルトのドラフトは12球団ワースト…「余裕のなさ」ゆえに冒険せず、好素材を逃した気がする

  1. 6

    小泉“セクシー”防衛相からやっぱり「進次郎構文」が! 殺人兵器輸出が「平和国家の理念と整合」の意味不明

  2. 7

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  3. 8

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  4. 9

    元TOKIO国分太一の「人権救済申し入れ」に見る日本テレビの“身勝手対応”

  5. 10

    “気分屋”渋野日向子の本音は「日本でプレーしたい」か…ギャラリーの温かさは日米で雲泥の差