「中有の森」江場秀志著

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 鴇枝啓祐は、都会の総合病院で働く32歳の精神科医。すっかりマニュアル化された短時間診療を繰り返す日々に疲れ、田舎の精神科専門病院に転職してきた。だが、ゆったりした環境に満足した一方で、杜臣医長のおかしな様子に気づく。

 杜臣は声に邪魔されて眠れないと言い、同じ病院の宿舎に住み始めた啓祐に入眠導入剤と少量の抗精神病薬の処方を頼んできた。啓祐も言われるがまま処方箋を出したのだが、杜臣は夜中の大声の独り言がとまらない。あまりにも不気味なので啓祐一家は、杜臣と距離をとるべく街中のアパートに引っ越した。

 しかし、夜中に図書館や遊歩道で独り言を言う杜臣の噂が病院内で立ち始め、啓祐は杜臣の病が深刻化していることを危惧し始める……。

午後の祠り」で第9回すばる文学賞を受賞した著者による最新作。本書は、若手医師の視線で杜臣を外側から語る導入部から始まり、次に杜臣医長の視点に転換して医長の内面を遡る構成となっている。精神科医としてのキャリアを持つ著者ならではの人の内面に分け入る繊細な文体で、死生の境界をさまよう意識を静謐に描いている。

(作品社 1980円)

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