「孤蝶の城」桜木紫乃著

公開日: 更新日:

 釧路の家を15歳で飛び出し、札幌、東京、大阪の夜の街、やがて芸能界へと足を踏み入れたカーニバル真子こと秀男がモロッコで造膣手術を受けるシーンから物語は始まる。

 術後は人工膣から膿(うみ)が流れ、高熱や貧血に苦しんだが、ようやく手に入れた女の体に薄いショーツはぴたりと張り付いて、様子がよかった。そして秀男が帰国するとマスコミはグラビアだ、インタビューだと追いかけまわし、秀男が看板で踊る日劇ミュージックホールでの特別公演は、連日立ち見の盛況ぶりをみせる。

 しかしどれほど人気が出てもいつか「性転換お色気路線」は飽きられる、という恐怖が秀男を苦しめる。歌手、地方公演に打って出、演技の勉強に打ち込むが、秀男の心は休まらない──。

 秀男の思春期を描いた「緋の河」の第2部にして完結編となる本書。秀男のモデルは、小説同様「日本で最初に女の体を手に入れた」カルーセル麻紀だ。

 秀男が愛した小説家との出会いと別れ、昭和歌謡界、男たちとの駆け引きといった舞台装置が秀男の心情を豊かに浮かび上がらせ、読む者に迫ってくる。

「自分の本物」になるための孤高の闘いを描いた長編小説。

(新潮社 2090円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因