「『豊かな暮らし』を取り戻す最後の処方箋 日本経済は再生できるか」田村秀男著/ワニ・プラス

公開日: 更新日:

 評者は田村秀男氏(産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員)の経済分析を信頼している。本書でも日本と世界が直面する経済問題を鋭く分析し、実現可能な処方箋を提示している。

 岸田文雄首相は、6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)を閣議決定した。

 この新しい資本主義政策に田村氏は懐疑的だ。

<新しい資本主義とは、競走優先の新自由主義を廃棄して、「分配」を重視するということらしい。分配を増やすことで消費をはじめとする経済活動を活発にし、それが成長につながる、と言っています。かなり、教科書的な理屈でしかありません。/新しい資本主義では分配が核になるはずなのですが、どうやって分配を増やすのか曖味です。政治判断だけで動かしやすい国会議員や公務員の給料だけを上げてみても、それだけでは経済の好循環にはつながりません。国会議員や公務員はあくまで少数派にすぎないからです>

 田村氏の指摘の通りだ。分配を増加して経済の好循環を担保するためには民間部門で働く人々の分配を増やさなくてはならない。しかし、岸田氏は新自由主義的な株価至上主義から抜け出せていない。

<従業員への分配をしないようでは、国が衰退し、結局、企業を弱体化させるからです。/岸田政権はまだ発足して一年にも満たないので、その成果ははっきりとデータにはでてきませんが、経団連など経済界に対し、働き手への分配を増やさせる強い意志は感じられません。岸田首相は新自由主義の見直しを口にしましたが、株主重視偏重こそ、新自由主義のコアです>

 小泉純一郎政権から20年以上続いている新自由主義政策を転換するためには、確固たる経済哲学が必要だ。しかし、状況対応型の岸田氏は時代の危機を認識する力も、それを克服する哲学(思想)を形成する力も過去1年の政策を見る限り、欠けていると言わざるを得ない。危機の時代には不向きな指導者なのかもしれない。近未来に政治的、経済的激動が起きる予感がする。 ★★★(選者・佐藤優)

(2022年10月7日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」