小熊英二(慶應義塾大学教授、社会学者)

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4月×日 本当の知性は時や場所を超える。見田宗介著「白いお城と花咲く野原」(河出書房新社 2640円)は1980年代の論壇時評集の再刊だが、分析の鋭さや表現の深さは現代でも古びない。「自由という名の非自由」「沈められた言葉たち」「『新しさ』からの解放」といった各時評の題名だけでも一端はうかがい知れるだろう。

4月×日 政府の記録保存が十分に機能していない。三谷宗一郎著「戦後日本の医療保険制度改革」(有斐閣 4400円)を読むと、これは政府の政策能力の蓄積に関わる問題でもあることがわかる。この本では、政府内での検討経緯が詳細に記録された1950年代の政策文書が、その後の改革に活用された歴史を実証的に分析している。過去の記録とそれとの対話は、現代の組織の力量の源泉となるのだ。

4月×日 戦争を知る世代が消えつつある。林英一著「残留兵士の群像」(新曜社 3740円)は、現代において「戦争の記憶」を研究するうえでの可能性を示す本である。著者はこの著作で、アジア各地に残留した旧日本兵を記録した記録映画の映像分析という新しい研究手法を開拓した。失われた過去もまた、方法によっては現代に蘇ることが可能になる。

4月×日 中東世界は日本から遠い。だが酒井啓子著「『春』はどこにいった」(みすず書房 4180円)を読むと、人間が抱える諸問題が今も昔も、どこの社会にあっても、共通していることがわかる。もっともそれは、著者がそのような視点、すなわち普遍的な人間社会の視点で中東を論じているためでもあるだろう。日本から遠い社会を見下すこともなく、理想化することもなく、等身大の人間が住む地域として関係を保ってきた研究者ならではの著作だ。差別や分断や「オリエンタリズム」を乗り越える方法を、理論よりも態度として教えてくれる。

 今回とりあげたどの本も、過去や他者との分断を主題としている。つまりそうしたことに私の関心があったのだろう。

【連載】週間読書日記

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