「文豪、社長になる」門井慶喜著

公開日: 更新日:

「文豪、社長になる」門井慶喜著

 京都大学卒業後に時事新報記者としてキャリアをスタートした菊池寛は、流行作家となった後に、芥川龍之介や直木三十五らの協力を得て「文藝春秋」を発行する。本書は、作家兼出版社の社長として波瀾万丈な人生を送った菊池寛の一代記で、文藝春秋創立100周年記念作品だ。

 物語は、かつて香川県高松で図書館通いの少年だった菊池寛が、師である夏目漱石の通夜の席に新聞社の命を受けて潜り込む場面から始まる。

 漱石一門に自分を引き入れてくれた芥川龍之介の後押しで発表の場を得た寛は、読者の意表をついた小説を発表し、人気作家となり、文藝春秋の創刊へと歩みを進めていった。

 同人誌から商業誌へ、文芸誌から総合誌へと発展していくなかで、戦争に突き進む当時の時勢に乗って戦争協力の道に足を踏み入れる様子も描かれる。のちに児童文学作家となった石井桃子に海外小説の要約のアルバイトをさせて娯楽小説のネタにしていたことや、芥川賞と直木賞創設のいきさつも紹介。

 文人仲間の経済状況を思いやる人情や、商人としての抜け目ない戦略なども描かれ、その知られざる側面が興味深い。

(文藝春秋 1980円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃