「マザーツリー」スザンヌ・シマード著 三木直子訳

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「マザーツリー」スザンヌ・シマード著 三木直子訳

 ジェームズ・キャメロン監督の映画「アバター」には、地下の植物どうしをつなぐ、光り輝く生命を持つネットワークが登場する。その植物どうしをつなぐネットワークという概念は、本書の著者が提示した考えが基になっている。カナダの森林生態学者である著者は、ブリティッシュコロンビア州の森林を調査するうちに、森の木々は菌根菌を通してさまざまなメッセージのやりとりをし、菌根ネットワークといったものを形成していることを「ネイチャー」誌に発表。同誌はそれを「ウッド・ワイド・ウェブ」と名付け、大きな反響を巻き起こしたのだ。

 本書は、著者が自らの生い立ちを語りながら、どのような経緯でウッド・ワイド・ウェブの考えに至ったか、それを証明するための度重なる試行錯誤の実験の模様を細密に描いている。代々森林の伐採に従事してきた家庭に育った著者は、大学卒業後に森林局の造林研究員になる。

 しかしそこで目にしたのは、換金作物の針葉樹を自由に生育させるために不要な広葉樹や雑草を農薬で排除するという造林政策だった。このままでは森が死んでしまうと思った著者は、広葉樹や雑草を残したままでも針葉樹は十分に育つのだということを証明しようと研究生活に転じる。

 そこから生まれたのがウッド・ワイド・ウェブの考えだ。従来の政策からの転換を迫る著者の考えは周囲の造林関係者の理解を得られず、四面楚歌状態で地道な研究を続けていく。

 その後、著者は森の粘菌ネットワークの中心にはマザーツリーというべき古く大きな木がコミュニケーションのハブとして位置し、森全体の生態を維持しているのだという考えに行き着く。

 親が子どもの自立を助け、やがて若い木々が一番高い木となり、養分の補充が必要な木を助ける──そうした大きなサイクルの中に我々も生きているのだということを静かに訴えかけてくる。 <狸>

(ダイヤモンド社 2420円)

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