「現代日本経済史 現場記者50年の証言」田村秀男著/ワニブックス

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「現代日本経済史 現場記者50年の証言」田村秀男著

 著者は、私が最も尊敬する新聞記者の一人だ。この十数年、私が産経新聞を読む動機の半分は、著者の記事を読むためだった。政府や大企業に忖度して、提灯記事を載せる新聞が増えるなか、著者は独自の視点から快刀乱麻の批判を繰り広げる。しかも、その批判が斬新かつ的を射ているため、読んでいて痛快なのだ。

 ただ私は、著者が日経新聞から産経新聞に移ったこと以外、経歴をよく知らなかった。本書を読んで、日経を定年退職した後に産経に移ったことを初めて知った。だから著者は社会に出てから、経済記者一筋50年という経歴の持ち主だ。そのことは、著者の職業人生が、日本経済の現代史そのものであることを意味する。日本列島改造論に象徴される高度成長期、石油ショック、日米貿易摩擦、アジア金融危機、小泉構造改革など、著者が取材してきたテーマは、いまの日本を形作ることになる重要なエポックが並ぶ。

 そして、著者が新人時代から貫いているスタンスは、現場の声を聞き、資料とデータを読み漁り、自分の頭で考えるということだ。当たり前のことだと思われるかもしれないが、手抜きの誘惑や利権の誘いを絶って、ジャーナリスト本来の仕事を貫ける人は、ほとんどいない。だからこそ、著者は70代半ばになっても、いまだにバリバリの現役を続けているのだ。

 著者は、東日本大震災のあと、朝日、読売、毎日、日経が増税容認を打ち出すなかで、孤軍奮闘で反増税を主張した。デフレが進行するなかで、増税などしたら経済が失速する。普通に経済学を学んだ人なら誰でも分かることだし、実際に増税路線で日本経済は沈没した。それでも財務省は、消費税増税に向けてメディア対策にも力を入れていく。著者の勤める産経新聞にも財務官僚はご説明にやってきたという。しかし、著者の長年の経験と豊富な知識に裏打ちされた増税批判に対して、一言も抵抗できなかったという。

 私は、日本経済を転落させた責任の多くが、財務省におもねる御用学者と大本営発表を垂れ流しにする大手メディアにあると考えている。その意味で真のジャーナリストが描く現代日本経済史は、大切な歴史遺産だと思う。

★★★(選者・森永卓郎)

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