「The Coral Triangle 密林珊瑚」古見きゅう著

公開日: 更新日:

「The Coral Triangle 密林珊瑚」古見きゅう著

 書名の「コーラル・トライアングル」とは、フィリピンとインドネシア、そしてパプアニューギニアを結ぶ赤道直下、南太平洋の三角地帯を指す。この海域には地球上に存在するサンゴの半分以上となる約500種が生息。海域に流れ込む巨大な赤道海流は貧栄養だが、繁茂するサンゴを起因としてもたらされるプランクトンなどの恵みを乗せた潮流は、点在する島々によって攪拌され、規模と量を拡大して海をより豊かにしている。

 密林のようにサンゴが群生するこの世界最大のサンゴ礁地帯は、さまざまな生き物たちが生まれ育まれる命の坩堝でもあるのだ。

 本書は、そんなサンゴのジャングルで繰り広げられる生き物たちの生命のドラマを活写した水中写真集。

 貧栄養の海水は、透明度が高い。快晴無風の海中では、見上げた水面の裏側にもサンゴが写り込み、サンゴの洞窟に入りこんだように四方が囲まれ、えも言われぬ景色を作り出す(表紙)。

 澄んだ海は、光をより深くまで届け、水深40メートルの海底でも、さまざまなサンゴが折り重なるように覆い尽くしている。

 キャベツというよりは、大きなバラが花びらを重ねているようにも見える「キャベツ・コーラル」の豪華なテーブルに、酒杯のような形をした海綿がいくつも乗ったさまは、まるで海のなかで行われた宴の後のような不思議な光景だ。

 一年のうち、アクセスが許されるのはわずか3カ月ほどという、世界自然遺産にも登録されているサンゴの聖地フィリピンのトゥバタハリーフで撮影された一枚など、繊細なサンゴと小魚の群れが作り出す世界が、まるで巨匠の描く絵画のようだ。

 そうしたサンゴの丘を駆けあがるように薄紫色のワンストライプ・フュージリアや、尾びれが鮮やかな黄色のユメウメイロなど、さまざまな体色の魚たちが群れを成し行き交い、海中に花吹雪のような景色を作り出す。

 サンゴの合間からは、著者に気づいたのか、好奇心いっぱいの顔でクマノミがレンズをのぞき込む。

 また海中生物界最強のパンチ力を誇るという虹色をしたモンハナシャコや、まるで有名アーティストの作品のような白地に黒のおしゃれなドット柄をしたサラサハタの幼魚、幾何学的な造形に派手なペイントをしたロボットのようなトゲツノメエビなど、見たこともないド派手な生物たちが次々と現れる。

 ほかにも、海中を切り裂くヒメイトマキエイの迫力ある捕食シーンや、こちらもドット柄が笑い顔のように見えるトサカリュウグウウミウシがホヤを捕食する姿などに生き物たちの生態の一端を垣間見たり、日没後、暗黒の海で繰り広げられるニシキテグリの産卵行動や、口内保育で卵を守るゴールドスペック・ジョーフィッシュの孵化の瞬間など、つながれる命のドラマも活写。

 この豊饒の海の恩恵は、黒潮に乗って遠く、日本にまで運ばれてくるという。地球はつながっている、と改めて感じさせられる。

 (クレヴィス 3300円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波