「伝言」中脇初枝著

公開日: 更新日:

「伝言」中脇初枝著

 満州・新京で暮らすひろみは、新京敷島高等女学校の生徒。憧れの学校に胸を弾ませて入学したのだが、非常時のために授業がなくなり、工場で軍事機密と称する作業に従事するようになった。

 何を作っているのかわからないまま、制服は体操服に吊りズボンになり、弁当は日の丸弁当になり、電車も贅沢だといわれて徒歩で歩いて工場への道を往復するようになっていく。尽忠報国、一億玉砕、五族協和を信じ、国のために尽くした日々だったが、ある日敗戦の知らせがやってきた……。

 当時現地で暮らしていた人への取材や文献資料をもとに、終戦間際の満州を描いた意欲作。

 女学生のひろみ、新宮府建設を請け負う建明の妻・李太太、気球による爆弾攻撃の作戦に駆り出された島田など、満州に生きた人々の複数の視点から当時の状況を浮かび上がらせていく。終盤では、現代の日本に時間軸を移動させ、満州に関心を持ったひろみの孫のあかりが聞き手になり、ひろみの記憶を引き出していく。

 知らなかった、仕方なかったでは終わらせず、次世代に経験を伝言しようとする、ひろみの決意が揺るぎない。

(講談社 1980円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?