「哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで」斎藤哲也編/NHK出版新書(選者・佐藤優)

公開日: 更新日:

「哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで」斎藤哲也編/NHK出版新書

 斎藤哲也氏(1971年生まれ)は出版業界でとても有名な編集者で作家だ。同時に哲学者でもある。最近は人文ライターという肩書を用いている。

<二〇二三年の五二歳の誕生日を機に、僕は肩書きを「編集・ライター」から「人文ライター」に変えた。人文とは、哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育など、大学で「人文科学」に括られる分野のことだ>

 人文科学の学知を社会の現実に生かすという戦略を斎藤氏は持っていると評者は見ている。本書は斎藤氏が日本の第一線で活躍する哲学者との対談を通じて、哲学史の入門的知識を伝えるという意欲的なシリーズの第2巻だ。

 評者にとって興味深かったのは、ヘーゲルの社会観だ。斎藤氏の問いに答えて大河内泰樹氏(京都大学大学院文学研究科教授)はこんな説明をする。
<ヘーゲル政治哲学の中心的な動機は、フランス革命が招いた恐怖政治をふたたび引き起こさずに、どうやって自由な近代社会を構築するかということにありました。(中略)/でもヘーゲル自身の意図は、古い社会の維持ではなく、自由な社会を作ることにあったわけです。自由を旗印にしたフランス革命が作ったのは、国家と個人が直接対峙するような社会です。しかし、そうなると国家が圧倒的に強い。では、どうすればいいのか。ヘーゲルは、フランス革命が破壊した旧体制の社会には、職業や身分にもとづく組合のようなものがあったことに注目し、近代社会においても新たにそうした中間的な組織を設立することが重要だと考えたんです>

 ヘーゲルが考えた国家の代表でも私的利益を体現するのでもない中間団体が「コルポラツィオン(協同組合)」だ。日本の現状に即して言えば、農協や医師会だ。それに創価学会のような宗教団体を加えてもいい。こういう中間団体に国家の暴走を防ぐ力が備わっている。

<ヘーゲルは当時生まれつつある資本主義の問題をいち早く察知し、フランス革命のような動乱を避け、貧困問題にも対処しながら、中央集権的でない近代国家を考えようとしていたんです>

 ヘーゲルの処方箋は21世紀の今日も有効と評者は考える。

(2024年5月1日脱稿) ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  2. 2

    自維連立に透ける実現不能の“空手形”…維新が「絶対条件」と拘る議員定数削減にもウラがある

  3. 3

    自維連立が秒読みで「橋下徹大臣」爆誕説が急浮上…維新は閣内協力でも深刻人材難

  4. 4

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  5. 5

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?

  1. 6

    ポンコツ自民のシンボル! お騒がせ女性議員3人衆が“炎上爆弾”連発…「貧すれば鈍す」の末期ぶりが露呈

  2. 7

    日本ハム1位・伊藤大海 北海道の漁師町で育った泣き虫小僧

  3. 8

    米倉涼子の薬物逮捕は考えにくいが…業界が一斉に彼女から手を引き始めた

  4. 9

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  5. 10

    影山雅永JFA技術委員長の“児童ポルノ逮捕”で「森保監督がホッとしている情報」の深層