「家を失う人々」マシュー・デスモンド著 栗木さつき訳

公開日: 更新日:

「家を失う人々」マシュー・デスモンド著 栗木さつき訳

 米国では、貧困の末に家を追い出され更に危険な生活に落ちていく人々が増えている。著者は、貧困問題を研究するなか、家賃が払えず立ち退きさせられる人々の存在に行きついた。本書は、彼らの生活を記録する目的で彼らが住むトレーラーパークとスラムに実際に著者も住み、そこで見聞きしたことを忠実に再現したノンフィクション。ピュリツァー賞も受賞している。

 本書では麻薬の売人がいる危険地帯で子育てをせざるをえないシングルマザー、スラムの物件を購入し面倒事を一手に引き受けることで「スラムの起業家」と呼ばれるようになった家主らが登場する。

 収入の70%以上を家賃に充て、公共料金を支払うと生活費がほとんど残らない人たちは、家賃滞納を繰り返したあげく強制退去になり、生活の基盤と希望を失う。強制執行と差し押さえを専門に扱う保安官が存在し、強制退去者のリストを不動産業者が売り買いする実態など、貧困層をターゲットにするビジネスが存在する米国は、果たして豊かな国なのか。

 住まいを原因とする貧困の拡大が止まらない現実をリアルな筆致で突きつけてくる。

(海と月社 2860円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋